一般国道49号
福取トンネル旧道
惣座峠 第8部

2022年5月4日 探索 2022年8月12日 公開

さぁ、いよいよ近づいてきた。逸る気持ちを抑えながら出来るだけゆっくり、だが確実に(急ぎ足で)近づいていく。幸いなことに路面はヤブが消え、道の雰囲気は明るくなり、左側には擁壁が出迎えてくれているという、実に至福の瞬間だ。少し立ち止まって手元の地図を再確認してみると、道はこの先で急角度に方向を変え、惣座の峠と福取の集落を目指して最後のラストスパートよろしく素直な道形で向かっていく。

青空と新緑と枯れ木に、路面を覆う枯草から芽吹く若芽。これが伸びてくると探索の敵になるヤブになるが、今はまだ春を感じさせてくれる可愛くて貴重な存在だ。それを踏みつけてしまうのはなんとも忍びなく、出来るだけ踏まないように避けながら歩いていく。

見よ!、この強固な擁壁を!

通行する者が少なくなっても、例え一人もいなくなっても、それでも今もなお強固に「道路を守る」と言う己の使命を全うするべく、雑草にまみれようが苔に覆われようが、そこに厳と佇み続ける崇高さを持つ擁壁。その心意気は、かの「武蔵坊弁慶」にも通ずるものがあるのではないか!(←言い過ぎ(^^;)

自然を切り拓き、人が道を通し、その道がやがて廃れると、人間が造った構造物を覆いつくして元の森へ戻そうとする驚異的な回復力。その道の栄枯盛衰に私は惹かれるのだと思う。

うおおっ!これはっ!

や~ん、見事な擁壁じゃん!(笑)
さっき休憩したばかりだが、ここで一息ついてビール(←但しノンアルコール)でも飲みたい気分だ。でもねぇ、リュックの中に入れて探索を始めると、冷たさは何とかキープできるものの、探索途中に揺れるから、肝心のところでプシュッと開けたら泡だらけになるのよね(笑)。

ま、それはさておき、右の谷側の路肩もこれだけ擁壁が施工されてると言うことは崩れやすいか、他の要因で崩れてしまうことが想定されるので施工されたのだろう。その擁壁の高さはさほどではないが、こうして廃道の要素満載の道の中で佇まれると、やはり非常に魅力的に見えてしまう。近づいて愛でよう(笑)。

いやぁいいねぇ!

見事に組まれた石垣。これまで災害が起きなくて崩れなかったようで、おそらく建造当時のままここに残っているものと思われた。キッチリと組まれているように見える石垣の隙間から灌木が生え、雑草が芽吹いていたりして年季を感じさせるが、その一つ一つが相まって強固なものとなっているようだ。旧道になって半世紀、それ以前からを考えると、優に一世紀近くはここで路盤を支えていることになる。この道を支えた影の立役者に拍手を送りたい。

その石垣の更に下を見ると、透明で澄んだ水が流れている。どうやらこの擁壁は沢を渡ると言う目的も兼ねているようで、いわば「橋」と言える・・・のかもしれない(←いまいち自身がないヤツ(笑))。
その小さな沢の流れの傍には新緑が眩しい植物(と、ゆーても相変わらず灌木や雑草の類だが)が多く芽吹いている。水の周りだけに土地が潤っているからだろう。やはり大地も人間も潤いが大事なんだなぁと妙に実感しながら、リュックを下ろしておもむろに麦茶を飲む私だ(笑)。

今度は沢の山側の石組みを見るべく、道に戻って辺りを見回していると、路面の山側の擁壁が始まるところに電柱が一本立っている。この電柱ももちろん現役で、福取集落やその先の八ツ田集落へ向かう電線は現道の福取トンネルを通らず、この旧道沿いに架設されているようだ。誰もこの電柱に車をぶつけることはないと思うが、ここにも律儀に黄色と黒のゼブラプレートが巻かれている。それに、電柱も心なしか新しく見えるのは気のせいか。保守として定期的に立て直されているのかもしれない。

これは沢を一旦超えて、進行方向を眺めたものだ。山側の法面は若干崩れているかと思われるが、それでも右側の電柱との間を見てみると、今でも軽自動車くらいなら優にすれ違い出来そうな道幅だ。これなら少し手を入れれば十分に通行可能で、廃道状態になっているのが実に惜しいと思う。

こうして旧道を眺めていると実に清々しい。ここを多くの人が通った往時のことを想像すると、懐かしい気持ちで一杯になる。福取の集落から津川方向に降りると八木山の集落。お嫁に行くためにここを花嫁行列が通ったかもしれないし、大きな身体を揺らしてボンネットバスや木炭バスが通ったかも。通行した記録が長く見当たらなかったこの旧道だが、こうしてもう一度光を当てられて非常に嬉しい。・・・おっと、忘れるところだった。山側の石垣を見なければ。

おおおっ!

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