一般国道352号
種苧原・城山トンネル旧道
第5部

2021年9月25日 探索 2022年2月25日 公開

種苧原トンネルの直上の山の斜面に見える、おびただしい数の雪崩防止柵に圧倒された私は、この先の探索を進めるべく分岐点まで戻ってきた。左の道筋を見ると、種苧原トンネルが見え、その頭上には私が圧倒された雪崩防止柵も見える。旧道はここから左の山の斜面に沿って、まるで「のんびりと」という表現がぴったりの雰囲気で先へ進んでいる。私もその雰囲気に従ってポツポツと歩いていく。

旧道に入って歩いていると、まず一番最初に現れたのがこの橋。欄干はガードレールになっていて、おなじみのコンクリート製の桁のようで簡素な造りの橋だ。とは言え、探索中にこういった構造物が現れるのは単純な桁橋でも非常に嬉しいもの。早速近づいて確認してみよう。

先程の「おれたばし」と同じく、粗石コンクリートで造られた、いかにも頑丈そうな親柱には銘板が埋め込まれていて(この辺も先ほどの「おれたばし」と同じだ)、その銘板には「もりんたばし」とある。
「もりんたばし」…?。「ばし」はともかく「もりんた」とはどういう漢字を当てはめて書くのだろう?。「おれたばし」の時とは違って、対岸の親柱の銘板が健在だといいが…。今度は右側の親柱を見てみよう。

反対側の親柱もこのようにしっかりと健在で、はめ込まれた銘板には竣功年月日が記されていた。「昭和39年12月竣功」とある。昭和39年と言えば1964年、今から57年前で東京オリンピックが開催された年であり、新潟地震が発生した年でもある。この辺りで12月と言えば既に積雪があったかもしれず、降り積もる前に竣功としたのかもしれない。

ここで「もりんたばし」が跨いでいる和田川を覗き込んでみる。先ほどの砂防堰提から見た透明度が高く綺麗な水が流れている。最近の川は都市部になればなるほど護岸がコンクリートで固められた、いわゆる「カミソリ土手」になっていて、こういった川の土手は探索中にしか見られなくなってしまった。

田舎育ちの私は幼いころは川で釣りをしたり、水遊びをしたりしたものだけど…。そのよく遊んだ川の名前は確か…宝満川だったか。その近くの山の中腹に神社があって、探検隊みたいな気分で行ったものだった。旧道や廃道を追いかけるようになってから、その場所を旧版地形図や航空写真で確認すると、その神社があった山そのものが崩されて高速道路のジャンクションになっており、少し悲しい思いをしたのを思い出した。こうして見える風景は、今この時だけのもの。改めてそのことを思い出し、目に焼き付けて先に進む。

川で遊んだ頃が懐かしくなって、思わず反対側も覗き込んでしまった。目の前の橋は現道の橋で、この橋を造る時に護岸工事がされたらしく、先ほどのような自然のままの土手は失われていて、少々残念だが仕方ない。こうしてみると現道に架けられた橋は旧道より一段高いところにあり、大雨で川が増水した際の対策なども考えられているのだろう。わかってはいるけれど、何か味気ない気もする。

和田川を覗き込んであれこれと想いを巡らせたら、探索の再開。先ほどの対岸の親柱を見なくてはならない。果たして「もりんたばし」の「もりんた」とはどういう字なのかと思って覗き込んでみると、ありました。埋め込まれた銘板には「森田橋」とある。
なるほど、「森田」と書いて「もりんた」か。意外に普通だったことに、少々残念(笑)。

もう一本の親柱を確認する。ここも先ほどの「おれたばし」と同じく親柱が草に埋もれていて、草を掻き分け掘り起こして確認したのがこの画像だ。これまでのこの橋の銘板を同じく、金属製の立派な銘板には「県道広神長岡線」の文字が刻まれていた。
この県道は、現在の国道352号が主要地方道から一般国道に昇格する前の、いわゆる主要地方道時代の名称だ。その主要地方道が一般国道に昇格したのは1975年(昭和50年)4月1日。そのころの国道はこんな長閑なところを走っていたと思うと、非常に懐かしい感じがする。この道の近所の集落の子供たちも自転車に跨ってこの辺まで来て、川遊びしていたころがあったかもしれない。

「もりんたばし」を渡って先を見るとどうだろう、こんなに長閑な道。一見すると農道のように見えたりしなくもないが、ここは間違いなく国道352号の旧道で、現在の道が完成するまでは(つまり種苧原トンネルが開通するまでは)ガードレールもデリニエータもないここが、一般国道352号だったと言うことになる。
雪の中、スノーシュー(その当時は「かんじき」か)などを身に着け歩く子供、路面の雪にその大きな身体を揺らしながら、のんびりと進んでくるボンネットバス・・・往年の風景が目の前に蘇ってくるかのようで、こうして田圃の中を通る旧道は、ここからどんな風景を見せてくれるのか非常に楽しみ・・・などと、今は余裕あることを言っている私だ。

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