一般国道113号
八ツ口旧道 第5部

2020年3月7日 探索・2020年4月4日 公開

ロックシェッドのその先へ

いよいよロックシェッドの中に突入した。突入した際の土煙が舞い、土を滑る音がロックシェッドに響く。入口には大量の土砂が流入していて内部は大丈夫かと心配したが、流入したのは入口部分のみで、内部は静穏な空間が広がっていた。
…だが、その空間は車の通る音も人が通る足音も、小鳥の声さえも聞こえない静寂の空間。そういう空間は、崩落した行き止まりの隧道なら幾度か出会ったことはあるが、こうしたロックシェッドでは初めてだ。静寂の中で本当に静かに時を重ねるロックシェッドの姿は、どこか寂し気だった。
道路を守るために設置された強靭な鉄骨の骨格と山側の擁壁は、今でも「道路を守る」という与えられた使命を果たすべく強固に路面を守っていたが、そこを通行する者は誰もいなかったからなのかもしれない。
私が突入した際の地面の跡は、いつぶりの通行のあとだろう。よく来たな、と歓迎されているような気がした。

今は静かな時間が流れているロックシェッドから出て、路面の先を眺めてみる。国道113号は旧一級国道ではないものの、山形と新潟を結ぶ非常に重要な国道であり、あの三島通庸が山形県令として情熱を傾けた小国新道の一部だ。それに相応しい貫禄のある、広い道幅ではないか。
おそらく当時は未舗装だっただろうが、未舗装でこの道幅は非常に立派と言えるのではないだろうか。灌木などがなければ、今も現役の道として十分使えそうだ。また、山側の擁壁もしっかりと道路を守っているおかげで、路面は今でも綺麗に守られている。

振り返ってロックシェッドを撮影してみた。国道らしい非常に頑丈なロックシェッドと山側の擁壁は、今でもびくともせず道を守っている。ところで、こういうところには得てしてスズメバチの巣があったりするので、旧道を探索する者にとっては悩みの種だったりするものだが、ここには幸いにして巣はなかった。そこにあったのは静寂な空間だけ。時間が止まった道の跡だ。
ここで声を出してみた。ロックシェッドの中に響いたけど、すぐに元の静寂に戻った。

更に少し進んで、ロックシェッドを遠景から撮影してみる。ここから見るとロックシェッドの赤が沈んで見えるので表面の錆が浮いているような印象を受けるが、中身の鉄骨はしっかりしているようだ。天井の高さは今と比べると低く、こんなところでも設計された年代を感じさせてくれる。
全行程の中間地点を過ぎて、ここで小休止することにした。探索を始めてからおよそ30分。カメラ機材を満載している背中のリュックを下ろすと楽になった肩の解放感を感じながら、麦茶と補助食のバーでエネルギー補給する。

休憩しながら辺りを見回してみる。右は荒川で画面奥が下流方向なので関川村方向になる。路肩外に落ちかけているガードレールが痛々しいが、これは土砂崩れか雪崩のどちらかが原因だろう。更によく見てみると路面が荒川に向かって斜めになっているので、おそらく土砂崩れが原因ではないかと思われる。ロックシェッドがあっただけあって、この付近は土砂崩れなどの多発地帯だったのかも。
最初に出会った建設業者氏の言葉の中にあった「雪崩と崖崩れで大変だった」とは、この付近を指しているのかもしれない。

ひゃ~、高けーなぁ…

下に見えるのは荒川の水面だ。どのくらいの高さがあるのか見当もつかないが、多分10メートル前後はあるだろう。私は本来高いところが得意ではないので、身を屈んでカメラを構えると結構背筋がザワザワする。こんなところから落ちたら、車で落ちても命取りになるだろう。それに、今なら途中に灌木があってどこかに引っかかりそうなものだが、当時はこんなに灌木もなかっただろうから、やっぱり水面に真っ逆さまと言うことになる。

遠くの雪山と、青空を映した荒川の水面、傍らの埋もれかけたガードロープが絶妙な景色を造りだしている。川から爽やかな風が吹き付けて身体を冷ましてくれたお陰でスッキリしたので、そろそろ出発することにしよう。ところで、私がいるこの場所の道路は地形図から抹消された区間であり、道路として供用を廃止しているので廃道と言う扱いになる。この後、先に進むと橋が二つあるはずだが、この橋も地形図からは抹消されている。

多分、ここへは二度と訪れることはないだろうから、少し先へ進んでから振り返ってロックシェッドを撮影した。路面が斜めになっているが、これはカメラを斜めに構えた訳ではなく、もともとの路面が斜めになっている。廃道になってからも幾度か山側の斜面が崩れているようで、路肩にあるガードロープの構造物が半ば埋もれかかってしまっているのも、そのせいだろう。


この道はこれ以降急激に高度を上げて、ここから二つ目の橋の付近で最高の高度に達するはずだ。すなわち、これ以降はしばらく上り坂が続くということになる。ちょっと整備すればハイキングコースになるんじゃないかと思いながら、まずは次の橋を目指そう!。

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