新潟県主要地方道59号
大和焼野線
後山トンネル旧道
 第4部

2023年4月22日 探索 2023年6月8日 公開

前回の最後、私は悪化してきた路面と、履いているトレッキングシューズに相談しながら下記の状況を確認していると、あることに気づいた。と言うところで終わっていた。
私が気づいた「あること」とは何なのか。それはこれだ。

路肩を眺めていて気づいたのだが、きっと皆さんも見てわかっていただけると思う。そう、ここだけ路肩の斜面がなく、擁壁が組まれているのだ。その擁壁が組まれている高さはさほどではないものの、擁壁の先の地面が擂鉢(すりばち)状になっていて、そこだけ土砂が滑ったことを教えてくれている。しかし、谷側がこういった崩れ方をするときには大抵、山側にも痕跡が残っているものだ。そこで、もう一度山側をじっくり見てみると…

やっぱり。

山側もやはり擂鉢状と言うか谷状と言うか、地面が抉れたようになっていて、抉れたところは沢でも流れていたのだろう。そして、その沢沿いに土砂が崩れて路盤を崩し、道路を寸断してしまった…いわゆる土砂崩れが過去に起きたことは間違いなさそうだ。
今でも崩れたところに沿って、雪が滑ってきているのだろう。だから一部分だけ不自然に、まるで流れ落ちたように雪が残っているのはそのためだ。そういう意味では、こちらも現在進行形であると言うことがいえると思う。斜面が崩れたり、土砂崩れが起きたり…まさしく満身創痍で後山集落の交通を守り続けてきてくれていたのだ。そして今はひっそりと余生を過ごしている。

視線をずらして、更に先の方を見てみると、山の斜面と谷側の斜面が実にいい感じで「この辺りは、いつ滑るかわかりませんよー」と言っているかのようだ。やれやれ、どうやらこの辺りも手早く進んだ方がよさそうだ。幸い、この辺は勾配もさほど急ではない。ここにきて、これまで押して上がってきた自転車がやっと役に立つだろうか。

跨って、ペダルに力を込める。ギアはゆっくりではあるものの、確実に前に進む2速ギアを選んだ。のんびりと、ブロックパターンのタイヤが地面に喰らいついて、前に進んでいく。

通過する途中、擁壁の場所まで来た時に覗き込んでみた。案の定、ここだけ擂鉢状になって土砂が滑り落ちている痕跡がしっかりと残っていた。多分ここは昔は沢で、その沢に沿って滑り落ちたんだろう。こうしてみると(不謹慎だが)なんだか滑り台のように見えてしまう。

しかしまぁ…こうして崩れた後に擁壁を組んである道はいろいろ見てきたが、そのたびに思うのは「よくこんなところに擁壁を組みましたよね?!」ということ。だってここ、かなりの高さだよ?!。足場を組んでも、下見たら怖いよ?!。ここで必死に工事を行って、この道を再度開通してくれた工事関係者の方々に敬意を表したい。こうして眺めていると関係者の方々の気迫が迫ってくるようだ。

擁壁に別れを告げて先へ進もう。道は右カーブになって後山峠である山頂を目指しているが、ここは山の端っこを切り開いて道を通したようで、ここは切通しになっている。空を見上げると、青空がだいぶ近くなってきた。もうすぐ峠が近いことを感じさせてくれる。路面には枯れ木が一本。人が通ることは稀で、車が通ることはないこの道でも、脇に寄せようと近づいたそのとき…!

ガサッ!

肝が冷える。足がすくんで動けなくなる。至近距離で音が聞こえた。クマか?。
まるで「だるまさんがころんだ」で遊んでいるときのように動きが止まると同時に、全身から嫌な汗が噴き出す。落ち着け。右も左も、ここは見晴らしが良かったはず。クマのような大きな動物がいれば、その前からすぐにわかったはず。となると、音がした原因は…?。ゆっくりと右手で腰に装着したナタのロックベルトを外しながら、左手はクマよけのスプレーに手をかけ、恐る恐る音がした方を見てみると…それらしき生物は見当たらなかった。

逃げたのか、それとも見つけられなかっただけか。どちらにしても、クマではなさそうだ。しばらく立ちすくんでいたその時間は1分が10分にも感じられたが、山の神や廃道の女神は私に味方してくれたようだ。全身から冷や汗が噴き出すと同時に、大きなため息を一つ漏らす。
もっとも、相手がクマなら場合によってはこうしてレポートを書いてはいないだろうから、やはり幸運だったと言わざるを得ない。これまでも細心の注意を払ってきたが、それ以上に注意していこう。先へ進もう。

少し進んで谷側に目をやると、こんな風景が広がっていた。
連なる山々に、ところどころに残る残雪、手前の新緑、奥の常緑樹の深い緑、春の抜けるような青空。この風景は、私がいるこの場所に来ないと見ることが出来ない。それでも、この風景が見れるのはこの一瞬だけだろう。これがあるから、あちこちの廃道や旧道や未成道を訪ねていると言っても過言ではないし、この風景も実に美しい。遥か昔にこの道を通行した人は「ここまでくれば、もうすぐ後山の集落だ」と思ったのだろうか。夏は良いけど、冬はメートル単位の雪の中。少しだけだがここに立って、当時の人達に想いを馳せる。

峠まではまだ少し距離がある。何か惹かれる構造物はあるかな?。
注意深く進んでいこう(クマはもういいぞ(^^;))

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