新潟県主要地方道58号
小千谷大和線
一村尾トンネル旧道 第7部

2023年4月22日 探索 2023年9月4日 公開

玉石積みの擁壁

先へ進んでいくと、道の形がよく見えてくる。路面には一部アスファルトが残り、路肩には、こういった山道の廃道にはおきまりのガードワイヤーの支柱が残されている。道は地形をなぞるように進んでいくようで、正面に見える抉れたような地形は沢だろうか。道はそこで折り返して進路を変えて急勾配で上っていくが、その谷側は断崖絶壁。もしも足を踏み外して落ちようものなら一巻の終わりだ。だが、この風景を見ながら何となく違和感を感じたことを覚えている。でも、その原因まではここではわからなかったのだが…

視線をずらして、この急勾配の終点付近を見てみる。さすがにこの終端付近になると勾配はさほどでもない。どちらかと言うと短い距離で急勾配にして高度を稼いでいるように見える。それにこの「山の斜面を道の分だけ削りました」といった感じの道形をしている。
…おや?。この谷側の地形、なんか変じゃないか?。右側と左側の谷の法面に対して、中央部分の土感が全くない。さては、この部分だけ滑ったな?。そう思いながら改めて眺めてみると、刺激的なものを見つけてしまった!。


玉石積みの大擁壁!

路盤そっくりなくなってしまうと言う大崩落が起きたにも関わらず、そこを下部はコンクリ、上は石を積んで擁壁を作り上げて道を復旧させていた!。望遠レンズで撮影してみると、その玉石積みの擁壁の様子が鮮明に写っているじゃないか!。山側の斜面の、それこそ岩を削りましたと言わんばかりの荒々しい斜面。それに対し、一度滑り落ちた路盤に対して緻密な石垣を組み上げて元通りに復旧すると言う、自然に挑んだ人間の土木技術。今のところ、どちらが勝利者か答えは出ていないが、私が通ったこの瞬間は、間違いなく人間の土木技術が勝利を収めていた。事実上廃道になっているこの道でも、この擁壁は確実に存在し続けている。

この擁壁に会いたい。
心からそう思った。

いかにも廃道らしい景色が続く。取り残されたガードワイヤーの支柱が物語る廃道の景色は、ここに踏み込んだ者だけが見ることが出来る格別の景色だ。私はいつも、こういった廃道に入ってこうした美しい景色を見ると、ここでテントを張って野営しながら、この道やその歴史と酒を酌み交わしたいと思ってしまうのだが、それはここも例外ではない。でも、おそらくそれは永遠に叶わない夢だと思う。やはり、太陽が出ている時間帯だけ、その廃道を眺めるのが一番美しい。

道がヘアピンカーブで転回する直前には、在りし日の路面のアスファルトが残っていた。このアスファルトをどれだけの車や人が踏みしめたことだろうか。この転回する地点も、そのカーブの頂点には沢が流れ込んでいて路面に溢れてしまっているが、これも当時からのものだろう。

私はここに到達したときに、この廃道から「よく来たな。だが本番はこれからだ」と言われたような気がしていた。どんな廃道でも感じるこの洗礼、ここでも間違いなく感じる。…ん?ここはまだ地図に記載されている現役の道じゃなかったっけ?。

ここで、何気なく振り返ってみる。それは、もしかしてもう戻ることが出来ない道への別れへの想いか、それとも必ず帰ってくるからと言う意味での振り返りか。どちらだろうと言うその問いに対しての答えは今でもわからないが、結果としての答えならわかる。
私は今、ここにいる。ここにいて、この道の原稿を書いている。それが全ての答えだ。

それにしても、この振り返った景色は今見ても格別にいい。
廃道と緑と青空。今こうして立っていても、在りし日にそこを通っていた人たちの姿が蘇ってくるようだ。それにしても今さらながら気づいたが、ここも結構な勾配だったんだな。知らない間にトコトコと上がってきていたが…

うおっ?!

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