新潟県主要地方道58号
小千谷大和線
一村尾トンネル旧道 第3部

2023年4月22日 探索 2023年8月19日 公開

隠された旧道

擁壁の裏が洗堀されて大穴が開いているところをじっくり観察して、穴に別れを告げ(別に告げなくても良いと思うが)少し進むと、このような日陰の落ち着く道の風景に出会える。この道幅はおよそ普通自動車1台分と言ったところか。後山トンネル旧道編の机上調査でお話したように、山肌を削り、僅か1台分の道幅を確保して開通した。ここをボンネットバスが通っていたとしたら、あなたはどう思うか?。
え?お前はどうなんだって?。そりゃぁもう…

私は非常に萌える(笑)

こうして少し遠くから見てみると、ところどころにまだ残雪がある。後山峠の方にはなかったものだ(多少はあったが、ここまで多くはなかった)。やっぱり新潟市内と違い、雪が完全に融けてなくなるのは、長い時間が掛かるようだ。

そんな残雪が残る道は、ところどころにアスファルトが見えていて、ここが最近まで現役の県道だったことを教えてくれている。ここだけ見ていると、まだまだ現役の道として活躍できそうだが、地図を確認してみるとこの先、旧道と現道が極端に接近しているところがあるのが気がかりだ。もしかすると、旧道の道筋の一部は現道の造成時に改変されているかもしれないなぁ…と思いつつ、のんびり自転車を漕ぎながら上がっていく。

路面のアスファルトが、右の山側から落ちてきた土砂によって覆われ、そこに草が生えて…と言った、道路が自然に戻る典型的なプロセスの一つを辿っている。後山の峠に、ようやく安心して通行できる道が出来たと思ったら、今度は局改(局所改良)の対象となり、新道が出来ると、それまで栄華を誇った道は旧道となって交通量も減少、やがて道路の供用廃止を迎え、一時代を支えた道は自然に還っていく。その自然に帰る時にだけ見ることが出来る栄枯盛衰の風景や、その道の後ろにある隠れた歴史に触れて感動すること。それが廃道探索の醍醐味ではないかと思う。
で…私は見事にこの沼にハマってしまったわけだ(笑)。

「いやぁ…今日は暑いな」と思いながら立ち止まってヘルメットを外すと、スポーツ刈りの頭に風が当たって気持ちいい。汗を拭いつつ路面を見ると、転がっている落石で落ちてきたのだろうか、私の握りこぶしよりも一回り大きめの石が路面に転がっている。こんなのが上から落ちてきて頭に当たった日にはひとたまりもない。こうしたことがあったりするから、やっぱり探索にはヘルメットは必要だと実感した。

所々に落石を見かける道を、後山隧道に向かって進む。谷に沿って進む道は空が開けていて非常に明るく、歩いていても気持ちいい(ここでは自転車を押していた)。谷側の路肩には、ガードレールかガードワイヤーだかの支柱がところどころにあって、道幅は1.5車線くらいだろうか。今でも多少の通行はあるらしく、人が一人だけ通れるくらいの踏み分け道が路面の中央についている。
山菜取りの道か、通常で通る道なのか。どっちにしても、この道がまだ生きている証でもあり、県道から南魚沼市道となって、今は供用廃止になっていても(告示はしていないようだけど)、事実こうして道が生き続けていることが非常に嬉しい。


供用廃止になっていても、告示はしていないようだとは、どういうことか。
道路の路線や、道路の一部を道路法の道路ではなくすときには、その状況に応じて路線の廃止や道路の区域の変更、供用の廃止が行われる。これは道路を一般交通の用に供しなくする廃道の場合や、新道が建設されて旧道が国道から県道や市道になったりする管理移管の際にも行われる。このように路線の一部を変更したり廃止するときには、変更したり廃止される道路の区域が明確でないため、供用廃止の公示を行う必要がある。

この供用廃止の公示が行われると、通常は国土地理院の地理院地図から道路の記号が抹消されて晴れて廃道となるが、この旧道を地理院地図で見ると、まだ二重線で道路として記述がある。これは「供用を廃止しているが、公示していない」か「地理院地図の更新が済んでいない」のどちらかということになるが、同じ国道49号の本尊岩隧道や揚川隧道を含む「揚川改良」の際は速やかに地理院地図が更新されて、対象の区間の道路記号が抹消されたところを見ると、「更新が済んでいない」と言うことは考えにくいかなと思う。従ってこの旧道は「供用を廃止しているが、公示していない」と思われ、この場合は厳密に言えば「供用の廃止」とは言わない。


先へ進むと、右の山側に何やら巨大なコンクリートの壁が現れる。
これは山側を切り崩して現道の路盤を造った際の擁壁で、これのおかげで旧道の路盤は現道の路肩から覗き込まないと見つけられない角度の位置に存在することになってしまった。画像を見るとこの部分だけ旧道が狭くなっているように見えるが、これは擁壁を造る際に旧道の路盤が一部崩されたためだ。狭くはなっているものの、路盤が残っていてよかった。通れるもんね。

谷側の路肩には相変わらずガードワイヤーの支柱が残っていて、地面を探せばワイヤーが見つかるかも…などと思いつつ、路盤の中央に見えているアスファルトの部分を辿りながら、のんびりと自転車で上っているワタシ。ゴール直前にある、あの画像の後山隧道は、まだまだ先。

前方左側には針葉樹の姿も見える。「陰」と「陽」で言えば、この旧道は拓けた明るい「陽」の道だが、少しくらい日影があってもいいじゃないか?と思い始めた私にとって、あの針葉樹の辺りに存在するであろう日影は非常にありがたい。もう少し進んで、あの日陰で小休止することにしよう。

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