山形県一般県道349号
鶴岡村上線旧道 荒沢隧道

第1部「コントラスト」

2023年10月14日 探索 2024年2月27日 公開

「コントラスト」

旧道の入口に相対する瞬間。どんな旧道や廃道でも最初に出会う瞬間だが、ある意味ではこの瞬間が一番緊張する。この道は私を歓迎してくれるだろうか、この道は私にどんな姿を見せてくれるだろうか。そんなことを思うと興奮ではないがワクワクしてくるのもまた事実だ。ここに来る前にひとまず地理院地図を見ているのでわかるが、ここはまだ廃道ではない。地図上にちゃんと記載されている、立派な公道であることはわかっているが…

なんかこの道、途中でなかなか素敵な状態になっているんではなかろうか(笑)

分岐点の姿形からしても、道の雰囲気からしても「ここは旧道です」と言わんばかりの素敵な道じゃないか。しかも、背の高い杉林の中をモーゼの十戒みたいに綺麗に分けながら進んでいる。これは楽しめそうだ。さ、入っていこう。

いいねぇ!

掠れてしまって消えかけた道路標示、鬱蒼とした森の中に突っ込んで行く道。右側を見て頂けるとわかるが、ガードレールに草が絡まってるあたりとか「旧道です!」と言わんばかりの道の雰囲気が楽しい。ここで道路標示に「40高中」なんぞあったり、路肩にデリニエータでもあると非常に盛り上がるのだが、それは贅沢と言うものか。何か県道の遺物がないかと周りを気にして、キョロキョロしながら歩いて行く。

ね、いい感じでしょう?。

この道は廃道にはなっていなくて、国土地理院の地図にもちゃんと記されている道(ただ、山形県道として登録されているかはわからないけど)。にもかかわらず、この荒れ様は…率直に言って嬉しい(笑)。再度ここまで来た甲斐があろうと言うもので、素敵な道と言えよう。路肩から道にはみ出してきている下草も実にいい。

でも、ここは冒頭に書いたスーパー林道の一部だった道。対面通行の2車線。それは林道と言うには非常に立派な道で、県道や三桁の国道と言っても全く遜色はない。こんな道が使われずに今でも山中に眠っているとしたら…それは非常にもったいない話だと思う。何より道がかわいそうだ。

さきほどまで2車線の幅を保っていた道は、ここまで来ると周りの下草や苔、枯葉などに侵食されて1車線になってしまっている。おまけにここには鍋倉トンネルや小名部トンネルにあったように、路肩に付かず離れず平行して走っていた電線の姿が見当たらない。と言うことは電線の管理道としても使われていない訳で…旧道と言うよりも廃道と言う雰囲気を醸し出している。また、山の斜面の際を走るこの道の全体の雰囲気は、これまでほとんど新潟県の道を探索してきた私にとっては、どことなく違う印象を受ける。土地が変われば道の印象も変わるものと言うことを改めて感じた。

この先に私が目的とする荒沢隧道があるのはわかっている。そこへ向かって標高を上げていくこの道は、言わば峠道。下に荒沢トンネルが開通したことで交通量が激減したこの旧道は、廃道に近い状態で山の中に横たわっている。昔はこの道を多くの車や人が行き交っただろうに、今はこうして静かに佇んでいるこの道。午前中の眩しい日差しが作る陰陽は、そのコントラストが非常に美しく、思わず佇んで見とれてしまうほどだった。

2車線の道が、路肩から迫りくる下草で1車線になっている道を、長靴の「ボコボコ」と言う音を辺りに響かせながら上がって行く。最近体重が増えて息が上がり気味の身体には少々キツい山道だが、運動不足の身体の為には良いだろうと、なるべく息が上がらないようにゆっくりと上がって行く。全く、面倒な身体になったもんだ。だが、この道と言う趣味に出会えたおかげで、いろんなことを知ることが出来た。それは普通に暮らしている限りでは絶対に知り得ないことであり、それを知る機会を得たことはとてもありがたく思う。

さて、ここから見える左の山側の崖は実に見事だが、その道幅はさらに狭まり、ここはおよそ1車線ほどしかない。しかも下草で狭まったんではなく、もともとこの道幅になっていたようだ。下に新トンネルが掘られたのは、この1車線の道の狭さと危険防止の観点からの道路改良だったんだろう。

この辺は日陰になっていて薄暗いが、崖のその先の道は左カーブで回り込むようになっていて、そこは明るい光が差し込んでいるようだ。

次回、辿っていく山道の先に見えたのは…?

第2部
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