一般国道290号
人面トンネル旧道 人面峠
前編 第6部
2020年7月24日 探索 2021年3月22日 公開
ヤブに囲まれて
人面峠を目指して進んできた私は、この場所に辿り着いた。左右の切通しや、峠が持ち合わせている独特の雰囲気など、ここでは峠独特の雰囲気をビンビン感じることが出来る。ここがおそらく人面峠だろう。途中でお会いしたお地蔵様に見守られたのかどうかはわからないが、何とかここまでたどり着くことが出来た。いや~、途中はどうなるかと思ったけどね。
でも、まだ安心は出来ない。峠には陰と陽があって、簡単に言うと日差しが当たる方と当たらない方。そして日差しが当たる方はヤブが濃い。さぁ、この先どうなるか。
峠を抜けた!。…ら、こんな景色が広がった。空は曇り空だが雨は降ってない。周りは峠を抜けたからなのか非常に明るい雰囲気が広がるが、目の前は笹のヤブ。胸のあたりまでありそうだ。こりゃナタよりも枝切り鋏か何か持ってきた方が早いかもしれないと思うほど、猛烈なヤブだ。ただ、峠を抜けた景色はいい感じだ。これで後は順調に峠を下れればいいのだけど…
峠を越えてから夢中で進んでいたので途中の画像を撮り忘れてしまったが、ヤブを掻き分けながら一度左カーブを過ぎて、ここまできた。…と言うところで、ここで足が止まったのだ。なぜ足が止まったか。路面を見ていただきたい。画像下半分中央にアスファルトの路肩が見えるが、どう見ても普通の路肩ではない。そう、ここは路盤右側の半分以上がごっそりと崩れてしまっているのだ。ペラペラのアスファルトが空しく宙に浮かんでいる様子が見て取れる。そして、本来あった路盤は設計上の幅の大半を失い、ものすごく狭くなってしまっている。
…危なかった。常日頃から探索中は特に気を払って進んでいるが、こうして崩れているのを目の前にすると、一層気が引き締まる思いだ。こういった崩れ方は国道49号石間石戸旧道でお目にかかった以来だ。こうしたところに足をかけると転落の危険がある。気を付けないと。
と言うことで、極端に狭くなった路盤から崩れた斜面を覗き込んでみた。どうやら本当にごっそりと無くなってしまったようで、下は非常に深くて地面らしきものはない。左隅にアスファルトのかけらがわずかに見えるが、このアスファルトもいつ崩れるか分かったものではなく(アスファルトは意外に強度がないので、こういった状況では注意しないといけない)、私は路盤の山側ギリギリを歩いてここを突破した。
崩れた路盤を見ていた視線を少し上にあげると(もちろん山側に張り付きながらだが)、その昔にまだ人や車の往来があって、活気があった人面峠から見えたであろう景色の片鱗が見えた。遥か先に見える山の麓は栃尾だろうか。曇っているが故に水墨画のように見えるその景色は、久しぶりに訪れたであろう峠の通行者を迎えてくれているかのように見えた。遥か昔の通行者も、こうして景色を見ながら一息ついたのかもしれない。
ふと足元に目をやると、何かの塩ビパイプが見える。こういった峠道だと、途中に湧き出している清水を麓まで運ぶか何かで、峠の路盤にこうしたパイプが設置されていることは少なくない。今回もその類かなと思ったが、その水はどこに運ばれているのだろうか。少なくとも私がこれまで通ってきた路盤には、採水場のような場所はなかったのだが…
旧道を司る、言うなれば「旧道の女神」(なんで女神なんだ?という疑問はおいといて)なんて言う神がもし存在するとしたら、その神は非常に意地悪だと思う。…なぜかって?。だってねぇ、これまで散々ヤブが深くて苦労して、ここまでやって来た訳ですよ。で、あまりにヤブが深いので、そろそろ引き返そうかと思っていたところに、この景色が飛び込んできたらどうだろう?。
もう少し先に行ってみよう!
そう思うじゃない!。もうヤブには飽き飽きしてるって言うのにさ。ところで、ここはどこだろう?。見ると、路盤は左に折り返すかのように急カーブを描いている。「こりゃあ現道時代でもネックだっただろうな…」と思わせるくらいの回り込み方で、沖見峠に通じるものを感じた。
少し近づいて、落ち着いてアスファルトの回り具合を見てみる。路盤は草に覆われているものの、明らかに右の急カーブで下っている。これまで確認用に使ってきた、ネットの地理院地図をプリントした地図を見てみると、峠を越えてからの右のカーブは一カ所しかない。人面トンネルの上を越えて下に降りるためのアプローチに入るカーブだ。となると、ゴールはもうすぐか?
だからさぁ~(笑)
この風景は先ほどの右カーブから顔を上げて見たものだ。さっきの風景からすると、視点が低くなっていることにお気づきだろうか。そう、ヤブに迷いながら進んできたのは数十メートルだが、だいぶ峠を降りてきているようだ。こんな景色を見ればもう少し頑張ろうかと思ってしまうし、出来ればこのまま進みたいところなんだけど、私の目の前に立ちはだかったのは…
あか~ん!撤退!
ここまでヤブが深くなると路面も見えないし、何が何だかわからん!。右も左もわからないし、そもそも自分がまっすぐ進んでいるのかもわからない。このまま進むと遭難の危険があるのは明らかだった。無理はせず、時には撤退することも大切と常日頃思っているので、ここは迷わず撤退することにした。…但し。
人面峠。
このままで終わらせないぞ。
ここで前編は終わりだ。
次は人面側から旧道を辿って、撤退地点に辿り着いてやる。
今度は冬枯れしている季節に辿ることにして、後篇に続く!。