一般国道290号
人面トンネル旧道 人面峠
後篇 第3部(完結編)

2021年4月3日 探索 2021年4月27日 公開

いよいよヤブの中へ突っ込もうかと言うところがこの画像だ。ここから一見すると、ヤブの深さはさほどでもないように見えるが、実際はどうなのか。でも、私を道の先に駆り立てる原動力になっているのは、先に見えているガードロープの支柱。あそこから見える景色は(私の想像だが)明るい道の景色が望めそうで、さほど笹も深くはないだろうと思う。それに、山の木々を切り分けて先へ進んでいる旧道の姿が左側に見えている。先へ進んでいこう。

旧道を辿っていると、こういった景色によく遭遇する。それは、ヤブの間にこうした明るい区間が「たまに」存在すると言うこと。ヤブを漕いでいる最中にこうした明るい区間があると、それだけでも心の救いになる部分もあって(笑)、これがあるからこそヤブ漕ぎして、先へ先へと進んでいると言っても過言ではない部分もあるのだが…。ただ、前方を見ると、ここはいいとしてもここから先は一筋縄で行かなそうだ。ほのかな期待を胸に、またもう少し先へ進んでみる。

うおっ!道が埋もれてる!

笹や灌木、ツタ類が複雑に絡み合い、私が先へ進もうとしているのを全力で止めようとしているかのように、路盤が埋もれるほどのヤブになっていた。この峠、なかなかの痴れ者のようで、笹だけならともかく灌木やツタ類も加勢してヤブになって私の行く手を阻もうとしている。こうなると私が持っているナタでは歯が立たない。それをあざ笑っているかのようだ。さーてどうするか。やっぱり、掻き分けながら行くしかないか?!

ここのヤブは比較的大人しめだ。やれやれと思って一息ついて前方を見ると杉の木の緑と青空が眩しくて、何となくホッとする。ホッとしたついでに何となく路面を見ると、元々敷かれていたアスファルトは土被りはあったものの、健在な姿を見せてくれていた。こうして歩いている足元にも安心感を与えてくれているが、やがては土とヤブに埋もれてしまうのだろう。それが実に口惜しい気がする。こうした道は歴史的に見ても残されて然るべき道ではないのかなと思うのだが、どうか。

山の中をまっすぐに進んでいる旧道と思しき路盤。その旧道の位置を私に教えるかのように、まるでモーゼの十戒みたく旧道の幅の部分だけ木々がない。…だが、ヤブは相変わらず深い。画像で見るとさほどでもないように見えるかもしれないが、実際は身長175センチ(多少サバあり(笑))の私が頭まですっぽりと埋まってしまうようなヤブだったりする。おまけに、掻き分けようにも笹だけならともかく、それにツタも絡まっているために掻き分けることが出来ず、まさしく「笹の壁」になってしまっている。しばしこの場所に佇んで、これからどうするか悩んでいたが、あの言葉を言うことにした。

撤収!

とは言っても、このまま引き下がるのも面白くないので、まずは帰り道に「帰り道にしか撮れない風景」を撮影してみた。これは山側の法面に見つけた、今は土と苔に埋もれてしまっている石組みの擁壁。

一見するとこれが石組み?とは思えないが、この擁壁を眺めていて「もしや」と思って表面の土と苔をほじくってみると、思った通り石組みの見事な擁壁だった。土に覆われてしまっていると言うことは、もしかしてこの人面峠は路盤が崩れたり法面が崩れたりして、しょっちゅう災害に見舞われていたのかもしれない。

現道の開通当初の植樹されたであろう桜並木。毎年春になると、この人面トンネルの栃尾側坑口を彩ってくれる。それだけ、このトンネルが人面の集落の方々にとって待ち望んでいたと言うことだと思う。現道はこれから人面峠の主役を務めていくが、それと同時にこの旧道は主役の座から降りて、余生を過ごすことになった。それが、人面トンネルが開通した1983年(昭和58年)9月6日のことだ。実に今から38年前のことである(執筆当時。2021年現在)。それでも最初は旧道も整備されていたのだろうが…。

旧道をポツポツと降りてきて、遠くを眺めて撮影した一枚。太陽の光が眩しいぜ(笑)。
杉並木の脇を通る旧道は、こうして見ると味がある。現道は一段低い場所を通っているが、旧道はこの通り高いところを通っている。その昔から峠を越えてきた人がこの景色を見ていたのだろうと思うと感慨深い。峠道は、その先の集落に帰る人にとっては、そこから見る風景が「ああ、家はもうすぐだな」と思わせてくれる大事な存在なのだ。


最後に、この人面峠を探索して一番印象に残った画像を見て終わりにしよう。
その画像はこれだ!。

前編の「お地蔵様」を期待していた方々には申し訳ないが、私にはやっぱりこれだった(笑)。
さしづめ、前編がお地蔵様なら、後篇はこのぬいぐるみだろう。実に愛嬌のあるやつだが、彼はここで人面峠を通行しようとする、数少ない人々を見守っているに違いない。
願わくば、あのお地蔵様と同じく、犬小屋でもいいから祠の中で安置して頂きたいと思う。

一般国道290号
人面トンネル旧道 人面峠

完結