新潟県主要地方道69号
長岡和島線
阿弥陀瀬トンネル旧道

第9部(完結編)

2022年10月15日 探索 2023年4月21日 公開

達路、聯路、間路

さて、ここからは調査編である。
この阿弥陀瀬峠は海側の町出雲崎と山側の町与板、その中間の島崎とを結ぶ道として、塩ノ入峠を経由する道と共に重要な道だったようで、この県道69号がJR越後線を越える踏切の名前に「島崎街道」の名前が残されていることからも、城下町であった与板に出雲崎から海産物を届ける道筋だったことが伺える。まずは旧版地形図を見てみよう。

この地図は 明治44年測図 昭和6年修正測図 内務省地理調査所発行5万分の1地形図 「三条」を使用したものである。

地図が細かくて申し訳ないが、重要なところに赤のアンダーラインを引いてみた。画像真ん中ほどに「塩ノ入峠」、左下寄りに「阿弥陀瀬」、左上には島崎、中央下部には與板町(よいたまち)の文字が見える。ここで面白いのは、信濃川沿いに鉄道が見えること。この鉄道は長岡鐡道との記載があるが、これは後の越後交通長岡線で、この先の大河津駅で当時の国鉄越後線大河津駅と連絡した後、寺泊方面へ向かっていた(ちなみに国鉄越後線は左上部に見えていて、よく見ると「をじまや(小島谷)」の駅名が見えている)。
現在は越後線は健在だが、長岡鐡道は越後交通長岡線となって細々と営業していたものの、1975年(昭和50年)3月31日に旅客営業が廃止、その後は貨物に転換して区間を縮小しながら営業を続けたものの、1995年(平成7年)3月31日に全線が廃止となった。

話を道路に戻そう。この1931年(昭和6年)の地図では、主要地方道69号となっている阿弥陀瀬峠の道も、一般県道274号与板北野線となっている塩ノ入峠の道も、片側が破線の「道幅2m以上」の標記になっている。これは元々は「聯路(れんろ)」と言われていたもので、この1931年以前の地形図では国道、県道、里道(りどう。市町村管理の道)に分かれていた道の分類中、里道とされていた道で、里道は更に「達路」「聯路」「間路」の3種に分類されていた。


「達路」(たつろ):著名な両居住地を連絡する道路、および著名な居住地から出て、また国県道もしくは他の達路より分岐して数町村を貫通する道路
「聯路」(れんろ):隣接する市町村の主要な居住地を連絡する道路
「間路」(かんろ):「聯路」間を結ぶ小路 となっていた。

なお、「達路」「聯路」「間路」は明治24年式~明治42年式で用いられたが、大正6年式では「達路」「聯路」「間路」の用語が無くなり「里道」は以下の3つに区分された。
・道幅一間半以上 ・道幅一間以上 ・道幅半間以上

だがこれも長くは続かず、上記の昭和6年の地図では、道幅3m、2m、1mで分類されている。


ここで注目したいのは、阿弥陀瀬を通過する道は幅2mの道だが、その上に3mの道幅の記号を持つ道が通っていることだ。この道は「をじまや(小島谷)」の駅から真っすぐに降りてきて、左に大きく曲がると、そのまま山中を突っ切って與板の市街地に向かっている。でも、確かこの道は今の地図にはなかった、と言うか目立った存在ではなかったはず。現在の地図を見てみよう。


国土地理院の電子地形図(タイル)に注釈を追記して掲載

このように現在の地図では消えてしまっている。だが、幅が3mもある道がそうそう簡単に消えてなくなるわけはないので、どこかに痕跡としては残っているはず。ただ、塩ノ入峠と阿弥陀瀬峠の道が主たる道になっている現代では、メインの道筋ではなくなっているだろうなと思い、現在の地図からルートを辿ってみた。すると、それらしき道筋を見つけたので地図に表してみたのがチェンジ後の画像だ。

古道と言ってもいいかもしれないこの道は、明治から存在していたいわゆる「明治車道」かもしれない。探索を始める前に地図を見ればよかったのだが、それをしていなかった今回の私は今初めてこの道の存在に気付いた次第だ。
また、現道から旧道が分岐する手前に、現道からこの古道へと延びる1本線の道がある。上に載せた昭和6年の地図では、片側破線で標記された現道の道筋は、前述の古道へと延びる1本線の道が分岐する地点とほぼ同じ位置から分岐して明治車道と思しき道に繋がり、與板へ向かっていた。今の道筋も地図上には見えるが一本線の「間路」の扱いになっていて、道幅は1mほどしかなかったと思われる。ますますこの道が気になってきた。これは再訪して探索しなくてはなるまい。おそらくは林道として残っているのではないか。そんな気がする。

偶然見つけて直感的に探索を行った道。探索を終えて調べてみると、実は意外に深かった。こういったことは珍しくはないが、それが旧版地形図で道幅3m以上の二重線標記になっているにも関わらず、県道になれなかった道に辿り着いたのは初めてだ。新たに謎を残してしまった探索になったが、この謎はいずれ解明したいと思う。

三島郡を横に貫く重要な道として栄え、
今まで多くの人や車を通して行き交ったこの県道の旧道
今は阿弥陀瀬の峠の中で静かに眠っている。

しまった・・・謎を残しちまったぜ・・・

新潟県主要地方道69号 長岡和島線
阿弥陀瀬トンネル旧道

完結。