山形県一般県道349号
鶴岡村上線旧道 大針洞門

第8部(完結編)
「自然回帰」

2023年9月30日 探索 2024年1月26日 公開

自然回帰



長靴で歩く「ポコポコ」と言う音を辺りに響かせながら現道を歩いていくと、最初に渡るのが「ひぐればし」。第7部の最後で出てきた銘板の、道路を渡って反対側についていたのがこの銘板だ。そこには「平成25年10月完成」とある。平成25年と言えば…(最近、和暦に馴染みが薄れてきてしまって、どうもいけない。このレポートを書いているのは2024年だが、和暦だと何年だっけ?となってしまう)2013年。今が2024年だから、かれこれ11年前か。意外と新しかったというのが正直なところだ。その銘板から視線を上にずらすと、旧道上に立っていたカーブミラーが背中を向けて立っている。その間には美しく(?)茂った草と蔦の数々。年月の流れを感じさせてくれる。


こんもりと茂ってるなぁ

橋の上から旧道を眺めてみた。中央より少し右側に洞門が見えるが、そこへ左側中央から繋がる旧道の路盤の様子がよくわかる。チェンジ後の画像は、その旧道の道筋に黄色の矢印を付けて、わかりやすくしてみたものだ。今回、探索した時期が9月の末と、残暑真っただ中の時期だったので下草が盛大に茂っていたりするが、これが冬を抜けた直後の時期なら下草も少なく、道の様子もハッキリとわかるだろうな。もう少し先で撮影してみよう。その方が洞門の様子がよくわかるかもしれない。

上の画像から少し歩いて旧道の方角を見てみて、目に飛び込んできたのがこの風景。鬱蒼と茂った手入れがされていない、自然のままの森の斜面に、まるでへばりつくように設置されている、実に華奢な洞門の支柱が鮮明に見える。その屋根にはやはり草がモサモサと茂っていて、多少なりとも土被り(と言うか腐葉土が被っただけ?)があるようだ。しかしまぁ…ホントに華奢だな、あの洞門の支柱。あんなんで落石でもあったら、はたしてちゃんと道を護れるのだろうか?。…あ、そうだった。護れないだろうから現道に切り替わったんだっけ。

その次に見えてきたのがこれだ。この画像では洞門の華奢な柱の様子と、その下に施工されている擁壁の様子がよくわかる。うーん…この擁壁、お世辞にも強固な感じはしないな。ここだけ以前に崩れたのかなぁ。でも、それにしては上部の構造物が崩れていないぞ?。やっぱりこの旧道、なかなか厳しいところを通ってるなぁ…などとブツブツと呟きながら、廃道の方向に向かってやたら太い望遠レンズを付けたカメラのファインダーを覗いているオッサン。しかもヘルメットに長靴。怪しさ満点じゃないか(笑)。

つい数十分前まで私はあの中にいて、退廃の風景だの、前方に見える暗闇の空間だのと言って盛り上がっていた。そんな自分が懐かしい(笑)。さて冗談はともかく、この風景は前の画像よりも少し先に進んだところで改めて旧道を見たものだ。これをファインダー越しに見ながら、さっき通ってきたこの旧道の様々な風景を思い返してみる。

今こうして対岸に見えている廃道が、つい11年前まで現役で使われていた道だが、前後の道も含めて洞門の内部は広いとは言えず、その幅は1.5車線程度でとても狭かった。旧規格で作られているから仕方ないのだが、あれでは工事に向かうダンプでさえ通行するのにかなり神経を使ったことだろう。もしかすると大型のダンプは通れず、小型のダンプしか通れなかったかもしれない。また前後の道では山側の斜面が崖崩れの危険もある上に道幅も狭く、路肩崩落の危険もあったと思われ、そうするとこの県道にとって、この洞門の部分が一番の通行のネックになっていた可能性が大いにあり、それが故に道路付け替えとなったのだろう。

この画像が、この探索最後の画像だ。旧道のこの辺りは、たぶん最初の入口の辺りだろう。華奢な柱に屋根、そこに覆いかぶさるような洞門上部の木々。誰も通らなくなったこの旧道は、こうして自然に飲み込まれていくのだ。人間が切り拓いて活躍してきた道を、自然が取り戻そうとする様子がここにはある。あと数年もすれば周囲の木々や草木がこの道を飲み込んで、通ることはもとより現道からもこうして見ることが出来なくなってしまうかもしれない。いつも思うことだが…この道が通れなくなってしまう前に通れて、こうして稚拙ではあるけど、記録に残せてよかった。

現道はこの後、小綱木橋と言う橋で赤川をもう一度渡り、私が最初にこの旧道に入ったあの分岐点の場所に出てくる。そこには私の車があり、探索のベースとなった場所だ。
時計を見ると、この旧道に入ってから1時間が過ぎていた。


このあと、私は新潟への帰路についた。予定より大幅に遅れてしまったが、往路で鍋倉トンネル旧道に寄り道してしまったのが一番の原因だ。復路は寄り道しないようにしないと。でも、もしあやしい場所を見つけたら…寄り道しないという自信は全くない(笑)。

時間は短かったが、なかなかに楽しい探索だった。
また折を見て様子を見に来ることにしよう。

山形県一般県道349号
鶴岡村上線旧道 大針洞門

完結。