一般国道49号
花立の短い旧道
第5部(完結編)
2022年5月4日 探索 2023年5月15日 公開
冒険の舞台
これからベースに戻ろうと現道を歩き出す。路肩にあった玉石積みの低めの擁壁から少し進んでふと視線を上にやると、そこはちょうど、あの旧道の存在を教えてくれた擁壁の下だった。その擁壁が守る小さな小山には、表面に小さな木(灌木ではなさそうなのがミソだ)がたくさん生えていて、こうして眺めているとなかなか楽しそうな山。大人から見ると取るに足らない小さな山でも、視点が低い子供からすると、それはアスレチックに勝るとも劣らない冒険の舞台になるのだ。この山も、田舎育ちの私が小さい頃に遊んだ近所の山によく似ているなとふと思って、しばらくこの山を眺めていた。
現道をポツポツ歩いていると、こんなところに出てくる。この上は廃道となった旧道で唯一、藪となってゆく手を阻んだところだ。今はその真下にいて、現道側から眺めている。こうして下から眺めてみると、さほど藪は深そうにないように見えるものの、実際は結構深い藪だったことは第3部で紹介した通りだ。あのまま藪の中へ突っ込んでいけば良かったのかとも思ったが、万が一足を踏み外せば現道に転落する危険があったので迂回した。その判断が間違っていたとは思わないが…ま、ヤブ漕ぎはまたどこかでしようか(←そこかい(笑))。
現道を結構なスピードで走る車を横目に見ながら、旧道の面影は何かないかと左端の道路構造物を眺めながら歩いていると、こんなのを見つける。左端のみ玉石積みの擁壁なのだが、現道に面している方は現代の新しい擁壁になっている。探索した後の今だからこそ、見てもそんなに違和感は覚えないが(一度見てしまっているから)、これを現地で初めて見たときには違和感のカタマリだった。現道に面している部分と言えど、ほとんどの部分を改修するなら、この端っこの部分も一緒に施工してしまえばいいのに…という訳だ。ま、そのおかげで私はこうして見て楽しむことが出来るのだが。
少し進んでふと見上げると、また擁壁の跡(と言うより、現役だが)。さっきと違って、今度は結構大掛かりな玉石積みの擁壁が残っている。それに、現道に面している部分もさっきみたいに比較的新しいものではなくて、結構年季が入っているように見える。これはおそらく1971年(昭和46年)10月の第1次改良の際に設置されたものだろう。この位置の上は、さっき私が歩いて楽しんでいた旧道の部分だ。下から見るとこうなっていたのか…。車が通る路盤を支える擁壁も、時代が変わって通行する車の重量が重くなると、造り変えなきゃならなくなる場合もあるのかな、と思った(全くの素人考えだが)。
現道から見上げたところに旧道の路盤が見える。ほんの数十分前に自分が通った道を下から見上げるというのは何だか不思議な気もするが、なかなかそんな機会もないので、ここはじっくり眺めることにした。
改めて見てみると、整備されたであろう路盤の谷側の法面には杉の木がすくすくと育ち、空いたところには草やシダ、竹が育っている。これだけ根が張っていれば、放っておいてもなかなか崩れないだろうと思う。きっと、この旧道の路盤はよほどのことがない限り、崩れずに残るんだろうな。
またまた登場と言うべきか。
現道に沿って施工されている現代の法面のすぐ隣に、玉石積みの擁壁が残る。しかも、ここだけって感じでわざわざ区切られたかのように施工されているのが謎だ。だが、玉石積みとはいっても乱積みではなく、右斜めに規則正しく積まれていたかと思えば、次の段は左斜めに規則正しく積まれている。強度を上げるためか、保つためだろうか。
上が旧道の路盤。この旧道の路盤は右へ向かって高度を下げていき、やがて現道の高さと一緒になって合流する道筋を取る。
旧道と現道の道筋を調べてみたが、元々現道と旧道の路盤がほとんど同じ位置を通っているため、なかなか判別しにくかった。地図をもう一度見てみることにしよう。
これは現道の地図。おなじみ地理院地図である。旧道の範囲は「131.3」とある場所から花立の集落の方向へ下り、集落へ分岐する道の分岐点までがおおよその範囲だと思う。続いて、1934年(昭和9年)3月31日発行の旧版地形図を見てみよう。
地図中、平石と記されている左側の道沿いに「141.83」とある場所から左の方へ下ると(左側は花立方向だ)、道が大きく何かを迂回するようにカーブしている場所がある。旧道はおそらくここまでで、おおよそ同じ範囲だと思う。もとより現道と旧道はほとんど寄り添っていることもあり、地図や航空写真でもなかなか判別しにくかった。今回はなかなか掘り下げることが出来なかったが、この道に関しての調査は行っていくつもりだ。
何かあれば「追記」と言う形でお知らせしたいと思う。
ずっと気になっていた短い旧道。
探索は、古き良き時代の旧道を見ているようで、非常に楽しかった。短くても何かしらピリリとした物語があるというのが、このシリーズの面白いところだ。だが、今回はなかなか掘り下げられず一旦完結することに。さて、この道の物語はどこにあるのか。
この旧道の本当の物語は、この道のアイコンとも言える小山を迂回する旧道と、その脇にある擁壁、そしてこの道を通った人だけが知っている。
そんな気がする。私はそこに到達できるか。それはわからないが、出来るだけ近づきたいと思っている。
一般国道49号
花立の短い旧道
完結。