一般国道345号
小名部トンネル旧道

第4部
「空と路面のあいだに」

2023年9月30日 探索 2024年2月15日 公開

空と路面のあいだに

ちょうどいい下草がこんもりと茂る旧道。前回でも書いたが、いかにも昔の聯路と言う雰囲気が出まくっている、いい道だ。右側は竹ヤブから杉の木に変わり、なんだか街道の雰囲気さえ漂ってくる。ここから少し先へ行くと(既に見えているが)左の山側に切り立った崖のような場所も見える。あれは自然の崖か、それともコンクリートの擁壁か。
早く見たくて心も逸るし、ここは景気よくスタスタと歩いていきたいところだが、実はこの辺の足元の草には蔦類も結構生えてたりして、それに足がひっかかると思いっきりコケてしまうというお決まりの結果になってしまう。

こうなると、たとえコケても「ま、誰も見ていないからいいか」と自分を妙に納得させてしまうが、そんな問題ではなく、ケガは大きい小さい関わらずしない方がいい。気を付けて進もう(笑)。

慎重深く、一歩一歩踏みしめながら(正直、そんなにゆっくりとは進んでいないが。日暮れも近いし)進んでいくと、手前で見えた左側の崖のような場所はコンクリートの擁壁などではなく、ゴツゴツした岩肌そのままの見事な崖だった。その表面には濃いめのコケがびっしりと生えていて貫禄十分。しかも、そこからは一本の灌木も生えておらず、よほど硬い岩盤なのだろうな。道を通す前から、もともとこの形をしていたのか、道を通す際に岩山を削ってできた崖なのか、それはわからないが、きっとこの壁、この道を通行する多くの人々を見てきたことだろう。今では通行する人も少なくなったが、それでもこの道を護る一員として今でもここに厳に存在している。

道を守護する崖に別れを告げ、先へ進む。だいぶ日が傾いてきて、気温も幾分下がってきたようだ。山の中の旧道を辿っているわけではないが、暗くなってくるといろいろと面倒だし、先を急ごう。とは言え、この旧道はさほど長くないはず。たぶん、ここを抜ければ現道に突き当たると思う。

ここにきて、足元が少しぬかるんできた。私は勇者の靴(←長靴)を履いているので平気で越えて行けるが、トレッキングシューズだとちと辛かったかもしれない。おまけに路盤を横切る溝のようなものが少し先に見えているが、あれは洗い越し…みたいないいものではなく(笑)、単純に路盤を横断する沢だ。と言うことは当然、沢の近くはぬかるんでいるわけだが、その沢の水は驚くほど透明で綺麗だった(とはいえ、どこから染み出してきた水かもわからないので、絶対に飲まないようにしましょう)。

さて、そのぬかるんだ沢を越えていくと…

おおっ!最後の抵抗か?

崖を通り過ぎ、左側の森が少し切れて空が明るくなってきたと思ったら、いきなりヤブが濃くなってくる。今のこの場所でおよそ膝の高さくらい。路面の幅は、さっきの見事な岩肌の崖の場所と変わらないくらい広い幅を維持していてはいるものの、ここまで頼りなくも道標として存在した、一人歩けるほどの細い踏み跡もここに来て無くなってしまった。と言うことは、さっきの崖の場所から先は、誰も入る人がいないと言うことになる。

あの踏み跡は誰が通っていたものだろう。山菜を取りに山に入る人か、あるいは散歩で歩く人か。それとも、イノシシやクマが通る獣道か。そんなことをふと思いつつ、ヤブ漕ぎで歩きにくいため、やや疲れてしまった足を休憩。少し立ち止まって一つ息をついて前方を眺めてみると、道の右側の先に見える電柱の辺りは、なんとなく拓けているようにも見える。あの辺りが現道との合流点かな?。

更にヤブが濃くなってきましたねぇ。空はさっきよりも更に明るく見えて、空から下に視線をずらしていくと、空→森→ヤブ→路面になっている。と言うことで、空から路面の間には、森とヤブしかないじゃねーか。なんか楽しいぞ(笑)。

そんな素敵なヤブは、この辺りでおよそ腰のあたりの高さだろうか。ガサゴソと掻き分けつつ進んでいると、腰に付けた複数のクマ鈴が草にひっかかって賑やかな音を鳴らしている。おかげでクマは近寄ってこないかもしれないが、やや煩くて仕方がない。
ここを抜けて現道に出ると、きっと衣服のあちこちにトビツキなどの草の種が付いていることだろう(ちなみに、こういった草の種の類は、布ガムテープを使うと簡単にとることが出来る)。

おや?

旧道の路盤上に踏み分けが復活した。どうやらここは誰かが歩くことがあるらしい。電力会社の職員の方々か、それとも近隣の集落の方々か、はたまた私と同業者の方か(←これが一番可能性が低いかもしれない)。ま、人間と言うことにしておこう。

相変わらず、腰くらいの高さまである草を掻き分けながら進む。これ以上、草の背が高くなればナタの登場となるだろうが。幸いにしてまだそこまでは言ってないのが幸いだ。
ところで、これまで歩いてきた距離から考えても、そろそろ現道に合流するはずなんだが、一向に現道を通行する車の音が聞こえない。現道って、そんなに通行量少なかったっけ?…少なかったな、うん(笑)

さっきから、ひたすら藪漕ぎしているが、そろそろ飽きてきたところだ(笑)
見当としては、おそらく前方の奥に見える電柱のあたりまで行くと現道に合流するはずと踏んでいる。あそこまで、あと5分もかからないかな。と言うことで…

この旧道の探索も、あと少し。

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