一般国道345号
小名部トンネル旧道

第2部
「無名のヒーロー」

2023年9月30日 探索 2024年2月7日 公開

無名のヒーロー

急ごうとは言うものの、昔から「急いては事を仕損じる」と言うように、見なきゃいけないところを見落としてしまっては話にならないので、あくまでも普通に歩く速度で急いでいるという、何やら訳のわからないことになってしまっている私だ。ところで旧道の方はどうなっているかと言うと…

左側に、何やら少し道幅が広くなっているところがある。これはたぶん離合場所だろう。これだけの道幅だもんねぇ。現道時代は前からこんな狭い道で前から他の車が来ると離合できずに、延々とバックしなきゃならない羽目になってしまう。おまけにそれが夜なら涙目必至だっただろう。こうした場所があるとかなり安心だ。だが、左の山側の路肩を見ると、もう少し道幅は広かったんじゃないかと言う気もしなくもないが…

うん、やっぱりもう少し広かったみたいだな。この辺りからだんだんと道幅が広がってくる。山間を進む、そこそこに狭い道。それはいかにも酷道の雰囲気たっぷりの、いかにも楽しませてくれる道の様相だが、果たしてこの先はどうなっていることか。このままこんな道が続いているんだろうか…などと、あれこれ考えてしまう。舗装も何となく綺麗だし…もしかして再舗装されてるのか。ま、あのカーブを曲がればわかるか…。

おおっ!さらに広いっ!

カーブを曲がれば道幅は更に広がって、優に二車線を越える道幅になった。現道当時もこんなに広かったのか…などと思ったが、たぶんもともと広かったんだろうな。ただ舗装はやはり直されているみたいで、妙に綺麗だ。あんまり綺麗なもんだから、思わず胡坐をかいて座り込んで、ペットボトルのお茶を飲んで一息ついてしまった。

いかんいかん。先を急ごうと言うのに、まだ始まったばかりの探索で早々に休憩して座り込んでどうする(笑)。道は緩やかな勾配、おまけに勾配だから、それでカーブの部分が広く造られているのだろう。さて…と思って山側を見ると…!。

おおおっ!

廃道を探索していると、交通が途絶えてしまった道路を今でも朴訥に護っている、名も無きヒーローとも言うべき道路防護施設に出会うことがある。これが非常に嬉しい。もちろん彼らを生み出したのは我々人間だが、その人間の交通を護ろうとしている姿を目の当たりにすると嬉しい半面、畏敬の念を覚えてしまう。

見上げるほどの高い擁壁。それは斜面にコンクリートを吹き付けただけの簡素な造りだが、山を削って通した道の斜面が崩れないように、それで交通が途絶えないようにするための使命を背負って、今ここにあるのだ。こうして見上げていても、その迫力は十分に感じることが出来た。そしてこの擁壁は国道から作業道となった今でも、道を護るべく土圧と戦っている。

そこから先へ少し進むと、これまで広々としていた道はいきなり狭くなり、2車線が1車線、徒歩道となって、いよいよ!と言った様相を醸し出してくる。いいなぁ、この落差。特に、この極端な道幅の細くなり方と言ったら、もう私の大好物(笑)。

迫りくる山側の木々、足元の草。山側がそんな状態で幅を狭めるべく道に迫っていても、そんなこと私は知らんと言わんばかりに、そこに厳に存在し続ける谷。従って道幅がどんどん狭くなっていくとともに、登場してくる新たな刺客が「ヤブ」だ。ここはまだそんなにヤブに覆われてはなさそうだが、この先はたぶん…と期待を込めながら進んでいくと…。

見てくれ、この素敵な景色を!

やはり旧道や廃道はこうでなくちゃ(笑)。
道を挟んで織りなす、山と谷のハーモニーとでも言いたいところだが、そんないいもんじゃない。足元を覆っているのは一面のヤブだ。だが大丈夫。私は「勇者の靴」を履いている(←長靴(笑))。それに、手には勇者の手袋(←皮の手袋)、頭には天使のカブト(←ヘルメット)と、装備は万全だ。

こんな細い道を車が走っていたのか…と思いたくもなるが、これは山側の木々が侵食してきているからだ。だが、それでもこの区間の道は狭かっただろう。こうして眺めてみるだけでも、往時の景色が頭の中に浮かんでくる。
ここからが本番だ。この道にとって、電線の管理者ではなく純粋に通行者として通す者は久しぶりのはず。それだけに道全体が喜んでいるようにも見えるし、私にどんな景色を見せてくれるか、この景色を目の前にしてワクワクしている自分がいる。…楽しめそうだ。

さぁ行こう!

第3部
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