一般国道345号
小名部トンネル旧道
第1部
「悲喜交々を見てきた橋」
2023年9月30日 探索 2024年2月3日 公開
悲喜交々を見てきた橋
さて、ここからは旧道の探索の始まり。前回では後回しにしていた旧道の橋から探索を進めていくことにしよう。まずは旧道に対峙して左側の橋の親柱を見てみると、そこには「小俣口沢」の文字が見て取れた。他の親柱を確認しているときに読み方が判明したが、これは「おまたくちさわ」らしい。だけど、この小俣口と言う名前の沢は、いつも持ち歩いているタブレットで地理院地図や旧版地形図を開いて調べてみても、その名前が出てこない(山の中だが幸い電波が入った)。なんだかいきなり謎に突き当たった感じだが…
小俣口沢(おまたくちさわ)。その付近にある集落は鍋倉(なべくら)と小名部(おなべ)。何やらいろいろと連想させる名前が並ぶものの、この沢は集落の人たちに愛される、良い沢だったのかもしれない。だが、その名前が地図上にもなく、唯一名前を残していたこの橋も廃道となって地図上から抹消されているのは、何となく寂しいものだ。
ここでふとひらめく。鍋倉集落と小名部集落、その二つは、少し離れてはいるものの、隣同士の集落だ。もしかして小名部の漢字は昔は「小鍋」だったのではないか。そうすると、鍋倉は様々な鍋をしまっていた建物があったから?。そう考えると、いろいろと楽しくなってくる。これは探索を終えてから調べてみよう。
反対側の親柱を見てみると、この橋の名前が明らかになった。その名前は「小俣口橋(おまたくちはし)」。どうやら沢の名前からそのまま頂いたようだが、前述のように今となってはその名前の由来が判然としない。ちなみに画像の右端に写っている川の流れは鼠ヶ関川である。この近くに流れる川でこの鼠ヶ関川に流入する川は、近くを流れる角間台川しかないのだが…。
ここはひとまず、対岸の他2本の親柱を調べてみることにしよう。新潟県の橋なら親柱に自らが所属する道の情報が銘板に刻まれているが、ここは山形県。竣功年月日はあるだろうけど、この橋が所属した道路の名称を記した銘板はないだろうなぁ…と思って確認してみると、やはり橋の銘板には刻まれていなかった。
ちなみに、新潟県ではこういった橋があると、親柱にはその橋の名称、読み方を記したひらがなの名称、竣功年月日、そして橋が所属する道の名称(例えば県道上谷地越後長澤停車場線)が刻まれているのが普通なのだが、他の県だと道の名称を記した銘板はないと聞いたことがある。新潟県独自なのだろうか。
中央に写っている川は鼠ヶ関川。その右側に走っている道は国道345号。この画像は、その小俣口橋の上から撮影したものだ。なかなかいい眺めじゃないか。こういった道筋は現代の道では見ることが出来ないものだ。今ならきっとこの区間はトンネルでぶち抜いて通過させるだろう。でも、この道筋は違う。山と川の狭間に通されたこの道は古くからここに存在して、地元に大切な道として使われてきたことがよくわかる。
さて、橋を渡って対岸の親柱を見てみる。そこには、この橋の竣功年月日「昭和39年3月完成」と言う文字が刻まれていた。昭和39年と言えば1964年、この年は新潟地震や東京オリンピックが開催された年。その頃は国道ではなく、県道だったと思われる(ちなみに一般国道345号は、1974年(昭和49年)11月12日の政令第364号の公布より一般国道として第3次追加指定、翌年の1975年(昭和50年)4月1日の同政令の施行によって、一般国道となった)。
およそ60年前。私はまだこの世に誕生しておらず跡形もなかった時代から、この橋はここに架けられ多くの交通を通し、悲喜交々を見てきたのだ。一見すると何の変哲もない古びた橋だが、そこにものすごい時間の流れと積み重ねを感じてしまう。
橋を渡って、改めて旧道の入口に立つ。ベースとなる車は、左の空き地に停めてあり、これから私の戻りを待つことになる。左には垂れ下がっているかのような電線が見え、小名部集落やその先の関川集落へ向かっているようだ。つまり、小名部トンネルには電力線を通さずに、この旧道を経由していることになる。ここも鍋倉トンネル旧道と同じく、電力線の管理道として活用されているようだ。どんな形になっても旧道として残っているのは非常に嬉しい。
道に覆いかぶさるように成長した木々と、なかなかに古びて傷んだアスファルトの舗装さされている道が続く。道路脇には以前はきっと「山形縣」の標柱が続いていたのだろうが、国道指定から外された際に抜かれてしまったようで、一本も残っていなかった。
旧道は山に沿って進み、その先右側には竹藪と昔を思い起こさせてくれるような風景が目の前にある。ただ、いかんせん道幅は非常に狭い。車の幅が現代の車のように広くなかった昭和39年当時でも、この道で離合するには神経を使ったことだろう。おまけにトラックなどが前から来たら…延々とバックする羽目になったに違いない。
道の先は、一度右に振ってから左へのカーブになっている。あのカーブの先がどんな道の状態になっているか。こんな舗装がされている、探索に快適な道か。それとも、ヤブ漕ぎしないと進めない道か。どちらにしても日没まで時間がない。急ごう。