一般国道113号旧道
川口橋 第5部
(完結編)

2021年3月4日 探索 2021年4月15日 公開

林を抜けて

前回の最後、旧道を辿っていた私がたどり着いたのがここだった。右に行くべきか、左に行くべきか、どっちだ?と言うことで終わったが、今回はその続き。ここまで上がってきたというのに、集落があるからと言うことで(そういう道もあるだろうけど)急に下り坂になることに違和感を覚えた私は、素直に右の道を進むことにした。
だってねぇ…なんだか雰囲気もよさそうだし(笑)

この旧道をを訪れたのは3月だが、法面にはまだまだ雪が残っていた。その旧道と思われる道は少々頼りなくなるほど細い。どう見ても1.5車線分の道幅しかなく、この道を大型車が通ったからには他の車は通れなくなってしまうかもしれない。離合には苦労したことだろうと思う。ところで、ここから現道まではさほど距離はないはずで、耳を澄ますと現道を通る車の走行音が聞こえている。この旧道はさほど長くはなかったものの、もうすぐゴールかと思うと感慨深いものがある。

最近削って造ったものではない、風格を感じさせる切通しと法面に囲まれた旧道を通る。右も左も杉林だが、右側の法面の斜面には雑木が生えていたりして、この道が開通してから今までの経過した時間をひしひしと感じさせてくれる。ここから現道までは目と鼻の先だ。短いようで長かったこの探索も、もう少しで終わる。それはなんだか寂しくもあり嬉しくもあるが、川口橋の謎(と言うほどのものでもないけど)や見事に作り込まれた玉石の石垣と言い、十分に私を楽しませてくれた。

林の中の道を一気に駆け抜けると、ほどなく現道に合流する。この画像で言うと前方に一時停止の標識があるが、そこが現道への合流地点だ。この後、少し進むとすぐに鷹の巣温泉街への道が左に分岐するが、この道は荒川沿いに鷹の巣の温泉街を過ぎた後で、トンネルを抜けた現道とすぐに合流する。長さとしては非常に短いが、なかなかに風光明媚な道でもあるので、機会があれば一話完結でお話できればと思う。

地形図を見比べて

大正2年測図 大正5年製版 大日本帝国陸地測量部発行
5万分の1 「小国」を使用したものである。

この大正2年のころは米坂線の開通前で、のちに国道113号となる道は雲母(きら)の集落から六本杉の集落、川口橋を渡って下川口から鷹の巣温泉方向へ向かっている。この道はまさしく荒川新道と呼ばれる道筋で、その全線開通は1885年(明治18年)秋。つまり、この道筋は2021年現在で136年前の道と言うことになる。この道は地図上では片側は太く、反対側は細い線で描かれていることから県道と言うことになり、それはまさしく「新潟山形線」だろう。また、川口橋が渡っている川は大石川だが、この川の幅が一番狭くなるところを狙って橋を架けているのがわかる。

大正2年測図 昭和6年要部修正測図 昭和16年部分修正測図
参謀本部発行 5万分の1 「小国」を使用したものである。

この地図は1941年(昭和16年)発行の地図で、この頃になると米坂線の姿が見える。
米坂線が全通したのは1936年(昭和11年)なので、この地図は全通した後と言うことになるが、この頃は雪崩で崩壊した荒川橋梁から列車が落下して大惨事となった、あの第四荒川橋梁列車転落事故(詳しくは横根トンネル旧道 第1部を参照)が発生した1年後だ。蒸気機関車が走る米坂線。現在ではイベント列車でしか見れなくなった風景だが、大石川を渡る風景を想像すると、絵になるいい風景だったのではないかと思う。

大正2年測図 昭和38年修正測図 昭和41年3月国土地理院発行
5万分の1 「小国」を使用したものである。

続いて1963年(昭和38年)の地図を見てみると、荒川を渡る川口橋と、その前後の道形が現在の道形に変わっている。現在の川口橋の竣功は1960年(昭和35年)5月なので、この地図は現在の旧道の道形に切り替わった後と言うことになる。二級国道ではあるものの、この当時から新潟と山形を結ぶ重要な道だったはずで、地図上でも太線二重線で描かれている。貫禄十分といったところだろう。

国土地理院の電子地形図(タイル)を掲載

そして、これが現在の地図で道の見取り図だ。国道から外れた川口橋を含む旧道は県道に指定され、大石川に沿って大石ダム方向へ向かっている。現在の地図を見ると現道の新川口橋や米坂線の川口橋、旧道の川口橋が架かっている地点は、大石川の川幅が一番狭くなる地点を狙って架けられていることがわかる。いつも私たちが単純に渡っている橋だが、いろいろと考えられて架橋されているんだなぁと言うことを改めて感じた。


この旧道、川口橋を含めてその距離は短いものの、川口橋や途中にある見事な石垣、並木道など実に楽しい道だった。この道を最初に見つけたきっかけは、通りすがりに「この道はもしかして旧道なんじゃないか?」と素直な直感に従って探索したものだ。
これからも「よそ見」することなく(笑)注意深く観察して、楽しい道を見つけていきたいと思う。

一般国道113号旧道
川口橋

完結。