山形県一般県道349号
鶴岡村上線旧道 大鳥隧道

第5部(完結編)
「玉石積みの陰影」

2023年10月14日 探索 2024年5月21日 公開

玉石積みの陰影

さて、この画像は前回の第4部で紹介した画像だ。この画像、よーく見ると奥にブルーシートが掛けられているのが見えるだろうか。正確に言えば掛けられているのではなく、垂れ下がっているといった方があっているかもしれない。ちなみに手前に置いてある農耕用と思しき器具は、読者様からの情報で「ディスクロータリー」と言うものだと判明しました(MakotoShirasakiさん、ありがとうございます!)。

さて、このブルーシートの外には何があるのか。たぶん笹根隧道側の坑口が見えるはずだが、恐る恐る覗き込んでみると…

そこにはお決まりの風景が待っていた。そこには農機具1台(コバシバディーと書いてあった)と、その先には壁側にもたれ掛けさせて何か置いてあるもの。それが何かはわかったが、いろいろ支障があるかもしれないので、ここでは詳しく何かを言うのは控えておく。だけど、この隧道は隧道としては使命を終えても、ちゃんと別の使命を見つけられて今を生きていると言うことが、よくわかった。

その先に見える明るい光は、笹根隧道側坑口。手前に見える赤いものが、放置してある農機具だ(ディスクロータリーではない)。その路面は中央部に深い削られたような溝があったりして、結構荒れている。だが、思ったよりは水没もなく、比較的美しく保たれていると言えるだろう。

よっこらせっと…!

探索を終えて外へ脱出。相変わらず三姉妹の隧道の中で、ここだけは今でも貫通していて、その内部は紹介出来るものもあれば出来ないものもあったりして、やや消化不良ではあったものの無事探索を終えることが出来た。…とは言っても、ここで終わる訳にはいかないので、ここからは隧道の外を少し見てみることにしよう。…と言うか、私が紹介したいだけなんだけどね。

いい切り通しだ!

この切り通しは、大鳥隧道の大鳥側坑口の先にある切り通しだ。私はこれを初めて見たときに、この切り通しを作って道を切り開いた人たちの想いがすべて集まってくるような気がして、言葉を失って不覚にも目が潤んでしまった。ここを切り開いて玉石積みで石垣を造り、迫りくる山に大鳥隧道を穿ち、鶴岡から大鳥方面に向かう途中の大きな集落の上田沢を目指して道を開通させたのだ。詳しくはこの後の調査編に譲るが(これがまた、とんでもなく深みにハマっていて大変そうだ)、今はこの石垣を楽しむことにしよう。

まずは左側の石垣から。…いい眺めだ!。周りに茂る木々の影が路面に落ちて、石垣にも一部かかっている。その石垣は、現代ののっぺりとした擁壁と違って玉石積みのために、そこに光が差し込むと絶妙な光の陰影が出来て、実に美しい。今では施工されることはまずないであろう玉石積みの石垣は、こうした道の景色と歴史に彩りを添えてくれる大切なアイテムであり、同時に道を護る守護者でもあるのだ。

緻密に組まれた丸石。擁壁自体はさほど高くないものの、その風格は十分。いつもこんな石垣を見て思うことだが、よくもまぁこんなに規則正しく左斜め、右斜めと交互に丸石を積み上げられるもんだ(これは純粋に尊敬しての言葉だ)。こうすると地面からの力が分散されて、擁壁が崩れない構造になっているんだろうな(あくまで筆者の推測です)。

この大鳥隧道編の最後の画像は、やはりこれだろう。このレポートを書いている時点で探索から7か月近くの時間が過ぎているが、探索した当時のこと、その時に見た風景、その時に感じた風、聞いた音、思ったことなどは今でも鮮明に思いだせる。この道に隠された歴史、それはこのレポートを書きつつ調べてはいるものの、ものすごく奥が深そうで…。だが、それを差し引いても、この隧道の探索は非常に楽しいものだった。


山形県一般県道・新潟県一般県道349号鶴岡村上線、旧名称は朝日スーパーライン。新潟県にも山形県にも存在した朝日村。そこを通る山形県一般県道・新潟県一般県道349号鶴岡村上線。すべての結末は、今執筆中の調査編でお送りすることにしたい。

三姉妹の隧道は、最後の長女役の隧道だけ私を通してくれた。用途は違えど今も立派に役目を果たしている大鳥隧道。まさしく、今回の探索の大トリにふさわしい隧道だったことは間違いない。

またいつか来たい道が増えて困る。
でも、この道はもう一度訪れたい。
何より、廃道から見える景色は格別だからね。

山形県一般県道349号
鶴岡村上線旧道 大鳥隧道

完結。