山形県一般県道349号
鶴岡村上線旧道 大鳥隧道

第4部「坑道断面の謎」

2023年10月14日 探索 2024年5月17日 公開

坑道断面の謎

大鳥隧道の坑口に正対して視線を左にずらすと、それはそれは見事な玉石積みの擁壁が目に飛び込んでくる。草が表面を覆ってはいるものの、隧道に対してその風格は十分。…おっといかん、涎が(笑)。左上部に見えているのは、現道の荒沢トンネルの突出した坑道部分だ。そこまでこの玉石積みの擁壁が続いていると言うことは、この隧道の開通当初は結構広い範囲に擁壁が築かれていたのかもしれない。

ここからこうして坑口を眺めてみると、こちらもやはり坑道はカマボコ型の変形。坑道下部が窄まっているので、たぶん分類上は馬蹄型に入るんだろうとは思うんだが、どちらにしても道路用としては変わった坑道断面になる。こんな坑道断面にしたのは、土圧の関係だろうか。

この角度で見るとよくわかる。隧道が山を穿いているというのは、こういうことなんだと改めて思った。隧道の上の土被り、玉石が積み上げられた擁壁の構造。人を通すために、交通を通すために造られた、自然に挑む人類の技術の結晶ともいえる隧道は実に素晴らしい。また、斜めになっている擁壁の上は、坑道の上の山に上がる道になっているようで踏み跡がついていた。

ここから見ても、坑道の上半分だけ黒い網が取り付けられているのがわかる。これはトンネル上部のコンクリート崩落を防ぐためのものだろう。その他はここから見る限りではコンクリートの傷みなどは見られないようで、それこそ現役で使っていてもいいくらいだ。となると、切り替えられたのはトンネル断面の小ささか?。
それではいよいよお待ちかね、坑道に進入だ!。

坑口から一歩、足を踏み出してみる。フラッシュを焚いて撮影したが、なかなかよく撮れたと思う。坑道の上半分だけ金網が張られている金網は、坑口付近だけかと思ったら中まで延々と張られていた。奥に見えるブルーシートが気になる。もしかして…といやな予感がふと頭をよぎるが、たぶん大丈夫だろう。…と言いながら、内心はドキドキしている。それにしても、それなりの時間が経過している割には綺麗な隧道だ。現道の大鳥トンネルが竣功したのが確か2001年3月、今が2023年(探索当時)だから、旧道化してからおよそ半世紀の時間が経過していることになるが、それにしては崩落なども見られないし、今でも歩行者用隧道なら立派にその役目を果たしそうだ(歩行者がいるかどうかは別にして)。

コンクリートの白さも、まだまだ眩しい隧道内部。内部の坑道の断面は坑口の形状とさほど大差ない(というか、変わってない)ように見える。ということは、この隧道は元々がこのような馬蹄形の断面を持つ隧道だったということになるのだが…。鉄道用隧道とか、鉄道用を道路用に転用した隧道ならこの断面は見かけるけど、もともとがこの形状の隧道はなかなか珍しいのではないだろうか。

路面も舗装してあって、この辺りは水たまりなどもないから快適に通行できる。もっとも、こうした廃道の隧道の内部は倉庫の代わりになっていることも少なからずあるから、注意が必要なのは言うまでもないが。その隧道の道幅はおおよそ1.5車線と言ったところか。ダンプやバスなどの大型の車両なら、両方の坑口に信号機を設置して交互通行にしないと通行できないくらいの狭さ。これが現道が造られて切り替えられた理由と思うが、それにしては交通量に見あわないような気がする。この辺りに何か秘密がありそうだ。

青いブルーシートに包まれて立てかけられていたものは、何かの資材だった。一安心して先へ進む。まだ内部はこの通り乾燥している状態で、状態も非常にいい。ここまで内部の崩壊などは一切見られず、ずっとこの白いコンクリートの巻き立てが見えている状態だ。…と、またまた左側に何か資材が置いてある。これは農機具だろうか。円盤状の「刃」らしきものが取り付けられているが、その形から想像するとトラクターなどに装着して使うようなものじゃないかと思うんだけど、この器具が何に使われるのか、この時点ではさっぱりわからなかった。

ところで、前方に見えている光は大鳥隧道の笹根側坑口だ。その光が何やら少し歪んでいるように見えるが、ここにきていよいよ崩落か何かだろうか。それと、この隧道は中央部が高くなっている拝み勾配の隧道であるようだ。なるほど、だから隧道内の水が両側に排出されるので、隧道内部はこんなに乾燥しているんだろう。

ここまで、おおよそ半分の距離を歩いてきて、少し振り返って確認してみる。先に見えるのは大鳥側坑口の光。笹根側坑口から内部を覗いた際に見えた光の乱反射は隧道内部の水没じゃなくて、ところどころにあるこの水たまりに光が反射したものだったらしい。となると、この隧道は笹根側坑口までこのような状態が続いているんだろうか。だとしたら廃隧道としては健全な状態と言えるかも。この大鳥隧道がこうして通行できるだけに、他の二つの隧道(荒沢隧道、笹根隧道)もできれば通りたかったけどなぁ…。

次回、通っていると何かを発見!
この探索もいよいよ大詰めになってきた!

第5部(完結編)
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