山形県一般県道349号
鶴岡村上線旧道 大鳥隧道

第3部「過去に繋がる道」

2023年10月14日 探索 2024年5月13日 公開

過去に繋がる道

さて、今は反対側の坑口に向かうために旧道を戻っているところだ。一度通った道でも、反対側から通ると違う景色が見えるというのは、私もこれまで何度も経験してきたところだが、ここでもやはりそうだった。私の目の前に、大鳥隧道に向かうときとは全く違う風景が目の前に広がっている。一番は、この空の青さ。行きは方角の関係からか若干白っぽい曇り空だったのが、こちらでは目が覚めるほどの青さがひろがっていた。

実に美しい。探索途中だが立ち止まって眺めてしまったほどコントラストが綺麗だったけど、それとは別に私の好物も一つ、左の茂みの中に見つけてしまった。この画像ではわかりにくいと言うか、ほとんどわからないかもしれないが、目を凝らして見てみるとわかるかもしれない。それはこれだ!。

玉石積みの石垣が隠れていた!

これだ!と言っておきながら、相変わらずパッと見でも判りにくいと思うが、本当に「こそっと隠れている」という言葉にふさわしい隠れ方。こういうのを見つけた時の喜びと言ったら…たまりません(笑)。そもそも、これを見つけたきっかけと言うのも、視点というのもあるかもしれないけど、一番は光の当たり方と見え方だろうなと思う。同じ光の当たり方でも、角度によっては深く光が入りこむことがあるので、、見え方が変わるというのを教えてくれた。もちろん、この後垂れ下がった草を掻き分けて、隠れていた石垣を確認したのは言うまでもない。そこにあったのは、丁寧に丸石を組み上げた旧道ならではの石垣だった。

その幅員のおよそ半分が下草に覆われて狭くなってしまっている旧道。その下草の更に左側に、玉石積みの石垣が隠れている。で、その周りの草をどけてみると(この画像がどけた後の姿だ)石垣が現れたのだが、その表面は金属のネットで覆われていた。おそらくは崩壊防止のためで、こんな道でも最低限は通行することが出来るように、管理が行われていたようだ(多分、現在もされていると思うのだけど)。

ところで「やっぱり、ここは旧くは街道だったのかなぁ」などと周囲をキョロキョロしつつ呟きながら歩いている姿は、周囲に人がいないということがわかっているからいいものの、そうでなければ傍から見りゃ立派な不審者だ(笑)。気を付けなくてはいけない。

さて、やってきました反対側坑口。最初のベース地点から移動し、今は現道トンネル脇にある空き地に車を停めて、そこをベース地点とした。移動させる間に私も仕切り直し、水分補給をして火照った身体を冷やし、着替えてリフレッシュした(実は私は汗っかきで、一度の探索で上下の着替えを多く持っていかないと大変なことになってしまうのだった)。

改めて、現道と旧道の分岐点に立つと、旧道のトンネルがこれ見よがしに自己主張しているのがわかる。「ここだ!ここにいるから、早く入っておいで」とでも言いたげにしている。この角度から見ると旧道には今でもクルマなりバイクなり入って行けそうに見えるが、分岐点に頑丈な柵があってクルマの類は進入することが出来ないようになっている。
白いコンクリートが眩しい現道の大鳥トンネル、鬱蒼とした雰囲気の旧大鳥隧道。外見は実に対照的だが、私が惹かれてしまうのはどちらかと聞かれると、答えは言うまでもないだろう。ここをご覧いただいている多くの方々も、きっとそうだろうと思っている。こちら側からも坑口をじっくりと拝見することにしよう。

坑口に向けて少し近づいてみた。ここで気づいたが、最初に対峙した笹根隧道側の坑口と形状が違う。こちらの方は至って普通の形状の坑道断面をしているが、向こうの坑口は若干平べったく蒲鉾型のようになっていたはずだ。坑道断面が途中で変わっているのだろうか。そんな例はあまり聞いたことがない。それに、笹根隧道側の坑口は2車線分の幅を確保はできないものの、1.5車線分はあったような覚えがある。それが、こちらはどう見ても1車線分しかない。となると、やはり坑道が途中で横幅だけ広くなっているとしか考えられないのだが…。

坑道が途中で広くなっていることはともかく、ポータルの雰囲気は非常にいいものだ。左右の玉石積みの擁壁といい、若干緑に覆われてはいるものの貫禄のある坑口といい、非常に惹かれるものがある。ここをつぶさに観察していたら、それこそ丸1日は優に過ぎてしまいそうだ。

坑口の前に立って、銘板があるであろう位置を見上げてみると、銘板はあるにはあった。のだが、草に覆われて見えやしない。カメラに望遠レンズを付けて覗き込んでみると、そこには笹根隧道側の坑口の銘板と同じように、立派な書体で右を頭として「大鳥隧道」と彫り込まれた銘板が掲げてあった。ポータルはこれまでの隧道と同じようにコンクリートで仕上げられてはいるものの無機質な印象はなく、長い時間を経過してきた風化の具合がいい感じ。坑道はここにも少し見えているが金属製の黒いメッシュで補強されているようだ(補強されているのは坑道入口のごく一部分かもしれない)。これはたぶんコンクリートの剥落を防ぐためのものだろう。

坑口からまた少し下がって、改めて見てみる。
左右の擁壁も玉石積みの見事なもの。
まずはここを見てから、隧道内部に入ることにしよう。

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