一般国道345号旧道
鬼坂隧道 第8部
「隧道へのスタートライン」
2024年5月18日 探索 2024年9月14日 公開
隧道へのスタートライン
ポールだけが残ったカーブミラーに別れを告げて(と言ってもまた帰りに通るんだけどね)、先へ進んでいく。右カーブを抜けると予想通り電力線の管理道になっていて、おまけにひたすらまっすぐ進む旧道の姿がそこにあった。この先に何か電力を使う施設があるんだろうか…それとも鬼坂隧道の中を今も電力線が通り抜けている?。いやいや、菅野代側の坑口の付近に電力線らしきものはなかったぞ?…などと、あれこれ考えながら歩いているおかげで、周りの景色がさっぱり頭に入ってこない。やめた!。これは後で考えよう!(笑)
とは言うものの、地味に緩やかな勾配が続く旧道(この景色を見ると、どう考えても廃道とは思えない)を歩いていると、燦燦と頭上から降り注ぐ日差しのお陰で暑くて仕方ない。この道は整備されているのか、それともたまたま下草が生えなかっただけなのかはわからないが、ご覧の通り路面のアスファルトが健在なだけに、菅野代側を探索した時よりも日光の照り返しがキツい。土の地面とアスファルトの地面と、これだけ照り返しの温度が違うんだなぁと、改めて実感する。
周囲には、それまで畑や田圃だったような平地がそこかしこにある。だが今は雑草が生い茂り、かつての農耕地はただの草むらと化していた。人の手が入っている耕作地を見かけたのは、第1章で左側にあった小屋の周囲くらいだ。もしかすると近年までこの道の沿線のどこかで何らかの耕作が行われていて、それでこの道が維持され続けていたのかもしれない。
暑かった直線のなだらかな坂道が終わると、道は右カーブで隧道を目指す。これまで道に寄り添って進んでいる電線も、ここではまだ健在だ。ふと立ち止まって路面を眺めてみると、僅かにセンターラインの跡が見える。路肩にはひしゃげてすっかり背が低くなったガードレール。対面通行が出来るほど道幅は広くはないが、それは昔の規格の幅だからだろうか。ただの電線の管理道にしては、手入れが行き届きすぎているなぁという気もしてしまう。旧道が電力線の管理道として利用されている例として、最近では「小名部トンネル旧道」のレポートがあるが、ここではこんな様子だった。これから比べると比較にならないほど、この道は快適だ。
だが、通行するのに快適ということは、旧道や廃道を探索している身からすると楽過ぎて(これも贅沢な話だが)「面白味に欠ける」と言うことでもある。やっぱり、つい最近まで耕作地への道として使われていたんだろうな。うん、きっとそうだろう!。…と言うことにして先へ進む。
緩やか~に上り坂、緩やか~に左カーブで進んでいる。こんな坂道は、上りは次第に速度が落ちてきたりして渋滞の原因になる、下りは逆にスピードが出過ぎてしまったりするという、運転者にとってはある意味でいやらしい道でもある。この鬼坂隧道の部分が局所改良されたのは、もちろん隧道が狭かったと言うこともあるだろうが、隧道に繋がる取付道路の特性も要因かも?と言う気がしてきた。
左も右も木々と様々な草木に覆われて、道の上にも木々の枝が覆いかぶさるようになってきていて、旧道となってからの時間を感じさせてくれる。だけど、この道は他の峠道に見られるような崖崩れや土砂崩れの跡がないことに気づいた。よほど安定している地盤のところを通しているのか、それとも鬼の仕業か(←そんなことはない)。
この辺りに来ると草が茂る路肩にガードレールが時折姿を見せるようになる。ここに来るまでにさほど道路構造物がなかったこの道だが、それだけに何気なくいい感じに錆びているガードレールなんかが見えたりすると、つい嬉しくなってしまう。
幸い携帯の電波が入ったので、ここで日陰に入ってリュックからタブレットを取り出し、地理院地図を確認してみる。マウスオーバーでチェンジ後の画像は、冒頭でも紹介した位置関係図だ。えーと、目の前に見えるカーブは左カーブ…あ、ちょうど半分くらいまで来たところにある急な左カーブだな。その先は…おや?。目の前にある、この少しだけ急な左カーブを回り込んでみると…
うおっ!
さっきよりも長い直線路じゃないか!。思わず立ち尽くしてしまう。しかも、さっきまでの道と違って日影がない。うわー暑そう。もう目が痛くなるほどの眩しい青空で、太陽の豊かな光が降り注ぐ、とても明るい旧道!…と言えばすごく聞こえはいいが、普通にはっきり一言で言ってしまうと「暑い」。この一言に尽きる。まだ5月だというのに…
…それはそれとして道をよーく眺めてみると、杉などの背が高い木々がなくて下草と低木だけが路肩に存在するという、見晴らしのいい道だ。しかも、遠く先の方まで視界が広がる一直線の道。正に森の中を切り開いた道という印象で、さすがに北海道の直線路のようにはいかないが、ここもなかなか景色がいい。こんな道はなかなか見れるもんじゃない。この直線を過ぎれば隧道まであと少し。さしづめ、本格的に隧道へアプローチをするためのスタートラインといったところだろうか。そんなことを思っていると…いかん。頭の中に海援隊の「スタートライン」が流れてきた。この先にある鬼坂隧道の坑口周辺はきっと薄暗く、ある意味で闇だろう。その闇に向かって行くためのスタートラインに、私は今立っている。
ここを歩いていくのは楽しそうだ。
願わくば、左右の茂みからプーさんが出てきませんように。