一般国道345号旧道
鬼坂隧道
 第6部
「塞がれた隧道」

2024年5月18日 探索 2024年9月4日 公開

塞がれた隧道

さて、今回はあえて前回の最後の画像から始まる。え?なんでかって?。
そりゃぁ、いきなり隧道の画像から始まってしまうと、面白くもなんともないじゃない。
冗談はさておき、ここから始まったのは振り返った時に隧道が見える、という状況を再現したかったからだ。そんなにこだわるもんでもないと言えばそれまでだが、こんな穏やかな旧道の風景の奥に佇んでいる隧道の姿は、美しく見たいもんね。ということで振り返ると…

やっと逢えた。

これが鬼坂隧道だ!。ここまでの旅はたいしてヤブ漕ぎもせず、泥濘を越えることもなく、さほど難しいものではなかったが、こうして相対するとやはり感じるものがある。坑口が見事に塞がれたその姿は今では自然と同化してしまい、一見するとただの岩壁にしか見えないかもしれない。おまけにほぼ坑口の形に繁茂しているツタで、なおさら壁に見える。

坑口の手前にはひしゃげたガードレール。これは進路を塞ぐために設置されたものだろうが、こんな形になってしまった今では、その役目をほとんど果たしていない。1951年(昭和26年)竣功にも関わらず、隧道内部はちゃんと覆工(いわゆる「巻き立て」)がされていたとされる隧道。坑口を塞がれた今でも目の前に立つと、その貫禄をビシビシと感じる。

ふと足元を見ると水の流れが一筋。その一筋の水がアスファルトの上に積もった周囲の土にも浸み込んでいるようで、泥濘になっている。長靴を履いているので、このくらいの水と泥濘はなんてことはないが、この水の元を辿ってみると、どうやら隧道の内部から流れ出しているようだ。なるほど、それで坑道から湿気がコンクリートを通して漏れて、その湿気で坑口の形にツタが繁茂しているのかもしれない。

隧道から少し離れて、改めてその姿を眺めてみる。山肌を深く切り通してカーブで隧道にアプローチする、ある意味で危険な道形を過ぎて扇形に切れ込んだ切り通しの先に、ひっそりと佇むこの隧道。見た目から隧道断面を考えると、こりゃ確かに小さく狭い隧道だ。次第に大きくなってきた近年の車では、1台が通行するだけの幅ではなかったか。全国隧道リストでは鬼坂隧道の最大幅は3.5mとあるから、やはり予想通りだったらしい。現道のトンネルが造られても納得がいく。

路面は鮮やかな緑の下草に覆われて、コンクリートは長年の水分と苔によって茶色に変色し、前髪のように垂れ下がったツタで隧道の扁額さえも見えなくなっている。人が造り出した構造物(この場合は道路)が役目を終えて放置されるとき、山に穿たれた隧道でさえも、自然はその驚異的な復旧力で自然に戻そうとする。その復旧力は凄まじく、時には強烈な土圧で隧道を圧壊させてしまうこともあると聞く。ここもあと5年もするともっと自然に還っているかもしれない。まだ見れる間に来れてよかった。

隧道のポータルの右脇に何やら隙間を見つける。それこそ、ここを通ると不思議なところに出てしまいそうで覗いてみることはしなかった。それに覗き込んだのはいいものの、そこにいたのはプーさん(クマ)だったりしたら非常に困る(どころの話じゃない)。ま、実際には単純に少し飛び出た隧道のポータルと、もともとの地肌の凹みの差の部分が周囲の木々に覆われて、穴のように見えているんだと思うけど。さすがに鬼は出てこないだろうから大丈夫と思う。ほら、冒頭で紹介した通り地蔵様に退治されてるし(←なんか違う)。

ひとしきり鬼坂隧道の前で眺めたり撮影したりしての時間を過ごした後は、今度は反対側(坂野下集落側)の坑口に向かうべく、来た道を引き返していく。隧道周辺の雰囲気がものすごく穏やかな雰囲気に包まれていただけに、このまま素直に引き返すのを多少躊躇ったものの、この時点で時刻は14時を回っている。もう少しするとクマが動き出す夕刻に近づくので、それまでに探索を終えることを考えると…仕方ない、戻るか。となった。もう一度、ここに来る機会があるだろうか。それはわからないが、またここを訪れたいことだけは確かだ。

後ろ髪をひかれてしまうような鬼坂隧道の坑口から降りてきて、ここは現道の鬼坂トンネルの菅野代側の坑口。ご覧の通り坑口が地山から突出している突出型坑門で、いかにも現代のトンネル!と言った感じだ。突出している部分はおそらく内部の覆工がそのまま延長されて出てきているんだろうけど、その厚さに目を見張る。こりゃちょっとやそっとじゃ、びくともしないだろう。技術の進歩を感じさせてくれる鬼坂トンネルだ。

さて、それじゃ反対側に向かおう。坂野下側の坑口も、ぜひ素晴らしいものであってほしいと思う。そうだ、この鬼坂隧道は旧鶴岡市と旧西田川郡温海町の境でもあったな。旧温海町側だった菅野代側は道幅も狭く、いかにも旧道といった雰囲気だったが、旧鶴岡市側だった坂野下側はどうだろうか。その辺の違いも楽しみだ。

では、坂野下側坑口へ向かおう!

あ、その前にトンネルの銘板見ておかなきゃ…

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