一般国道345号旧道
鬼坂隧道
 第10部
「ピラスター代わりの針葉樹」

2024年5月18日 探索 2024年9月23日 公開

ピラスター代わりの針葉樹

前回の後半で石垣を見つけた私は、石垣の先に見える右カーブを過ぎれば隧道に到達するだろうと予測した。そこで石垣の場所を離れて隧道に向かおうとしたのだが、なぜか石垣から離れがたくて、もう少し見てみようと今に至る。この石垣は第9部の最後で私が手に触れた石垣だ。何とかもう少し鮮明に撮れないかと、少し離れて撮影してみたおかげでフラッシュの光が奥まで入り、積み上げられている石の様子がよく見える。その石を改めてよく見てみると、私がこれまで見てきた石垣の石の大きさよりも若干大きい気がする。それだけ旧いものなのか、石垣上の平地に何か建造物があったのか…それはわからないが一つだけ確かなことは、以前にも書いたが、たぶんこの道と開通と同時に完成しただろうと言うこと。

…うーん、やはり接近して撮影してみないと詳しい様子がわからない。もう少し踏み込んで撮影してみるとしよう。

おおっ!

積み上げられているのは自然石だろうか。これだけ一つ一つが大きい石を、よくもまぁこれだけ緻密に組み上げられているもんだと改めて思う。これまでより少し踏み込んで、接近して撮ったおかげで石垣の様子が手に取るようにわかるし、よくよく見ると石と石の間にモルタルのようなものも含まれていないようで、積み上げられただけと言うことがわかる。いろんな災害が頻発する今の時代で、よくぞ今まで無事に残っていたもんだ。これからも出来る限りここに無事に残っていてほしいと願う。

再度こうして見られたおかげですっきりした。このカーブを曲がればいよいよ隧道。
皆様、お待たせしました。これが鬼坂隧道の坂野下側だ!。

おおっ!これが坂野下側の坑口!。しかも菅野代側と比べて良い状態で残っている!。これまでの緩やかな道を上りきったところで、頂上ではなく中途半端な位置で山に正対して突っ込んでいくという、それこそ典型的な「この先に隧道がありますよ」パターンの道形をしている道も、よく管理されている。その管理は見たところ、隧道直前まで行われているようだ。じゃなけりゃ路面がこんなに綺麗なはずがない。いざ隧道へ!。

見よ!この綺麗な路面を!

やっぱりちゃんと整備されてないと、路面はこんなに綺麗じゃないと思う。旧道、しかも峠を越える隧道は坑口を塞がれていて、旧道の沿線にはこれといって建物もなく耕作地もないにも関わらず、こんなに綺麗な道は今まで見たことがない。実に不思議な道だ。

改めて隧道周辺を眺めてみると、坑口が塞がれているにも関わらず、鬼坂隧道は「ここに隧道あり」と言った貫禄を感じる。坑口の両側に生えている針葉樹が、まるで隧道のピラスター(付け柱)のように見えるし、装飾を一切廃したような、あっさりとしたスパンドレル(坑口外側の壁)も良い!。これはいかん、もっと接近してみよう!。

隧道の坑口まで来た。ここで隧道全体を見てみると、やはり谷のように深く切れ込んだ道と、その正面にある質素なスパンドレル(坑口外側の壁)の隧道が非常に良い。それに塞がれたコンクリートの色の違いから、元の隧道の坑口がはっきりと判別出来る。やっぱり断面が小さい昔の隧道で、前後の取付道路の関係から、この隧道を掘り直すよりも別に、新たにトンネルを掘った方がいいと言うことになったのだろう。通りたかったなぁ、この隧道…。おや?坑口の上を見てみると隧道の扁額が残っているようだ。これはありがたい!。早速見てみよっ!。

…とは言えど、隧道の正面から見ても、やっぱり扁額まではかなりの高さがある。カメラのレンズをズームに変えて見てみると…ほほぅ。画像では見えにくいが、ここには隧道の竣工年月が刻み込まれていた。その文字は昭和26年6月竣功。この竣功年は日本全国隧道リストに記載されている竣功年と一致する。竣功年が扁額となっているのは、なかなかないんじゃないだろうかと思うが、いかがだろうか。

隧道を訪ねた今、残すは復路のみ。
長かったこの探索も終わりに近づくが、最後までいい隧道だった。
見逃したものを探しつつ、ベース地点へ。

第11部
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