一般国道345号旧道
鬼坂隧道
 第1部
「峠を越える二つの道」

2024年5月18日 探索 2024年8月10日 公開

峠を越える二つの道

それではいよいよ心躍る、楽しい楽しい探索の開始だ。このトンネルは現道の鬼坂トンネル。突出型坑門で半円形の、これはこれで美しいトンネルだ。途中で多少カーブしているので反対側の坑口の光が見えないが、確かに貫通はしているので安心していただきたい(←当たり前だ)。この画像を見る限り旧道の分岐点は坑口手前の左側のように見えるが実は違っていて、この位置の手前に交差点があり、そこから右側に入っていくと…

ここに出てくる。現道は左側を通っていて、前述の現道の交差点から右に入っていくと、このおなじみの(?)看板があるというわけだ。そして私が立っている道も実は旧道で、この付近の現道は楠トンネル・鬼坂トンネルを中心とした局所改良で誕生した、長大な旧道なのだ。

詳しくは国土地理院の「地理院電子地形図」を見て頂きたいが、その起点は楠トンネルの温海川側分岐点。旧道は楠峠を越えて菅野代の集落から大瀬戸川沿いに進み、この地点に出てくると、この先で鬼坂隧道経由の旧道と鬼坂峠経由の旧旧道に別れ、お互いに坂野下集落を目指し、坂野下集落を越えた先で現道と合流する。その全長は実に9キロ!(地図上で計測。実際には10キロ近くあるかもしれない)。この国道345号にとって楠峠から鬼坂峠の区間は、よほどの難所だったんだろうなぁ。特に鬼坂峠経由の旧旧道は通れるうちに通ってみたいと、このレポートを書きながら思った。

前の画像の交差点から左に進むと、この地点に出る。この道筋は鬼坂峠経由の旧旧道の道筋と重なっており、その昔に地蔵様に勝負を挑んだ、黒鳥の兵衛どんの鬼が通った道だ。そう思うと、この道の歴史をひしひしと感じてしまう。右側には電力線、左側には通信線(電話線)が敷設されているところを見ると、この先に住宅があるか何かの施設があるのか…。ここは道幅も広く、以前は国道だったことをひしひしと感じさせてくれる。

実はここまでは車で辿っている。それはなかなかベース地点が見つからないからなのだが、この先の旧道と旧旧道の分岐点辺りなら、ベース地点になるところがあるかもしれないという目論見もあった。さて…どこにしようかな。

ということで、分岐点。ここから左にカーブしていく舗装された道が、鬼坂隧道を経由する旧道だ。その開通は1951年(昭和26年)、今(2024年)からおよそ73年前に開削された道をこれから辿っていく。周りは素敵なくらいに森林、いかにもクマがいそうな森じゃないか。左に向かうカーブの先に車を停めて、そこをベース地点にして準備を始める。クマ鈴はいつも4個身に着けているけど、もう少し何かした方がいいかな。

旧旧道を直前で分岐しながら、自らは隧道に向かっていく旧道。その道をこれから辿っていくことに、ワクワクしている自分がいる。私はMBTI(性格診断)では冒険家のタイプらしいが、まさしくその通りらしく、どうやらこういった道を目の前にするとテンションが上がるこの習性(?)は治りそうもない。

ところでこの鬼坂隧道に通じる道は、国土地理院の「地理院電子地形図」に道路として記されてあるので、旧道化した際に道路の供用廃止を行っていないのだろう。この画像は旧道と旧旧道の分岐点を、一つ前の画像の地点から振り返って撮影したものだ。地図で確認すると、鬼坂峠経由の旧旧道はここを直進することになっているので、左側に入っていく道が鬼坂峠への旧旧道と言うことになる。この道は途中で点線になっていて車は入って行けなさそうだが…よく見ると、旧旧道の坂野下側は途中まで道の脇に耕作地が広がっている。点線になっているのは鬼坂峠の峠道の部分だけで、これはうまくいけば通れるかもしれないし、それにさっき道端に並んでいた電柱に敷設されていた通信線と電力線が旧旧道方向に走っている。もし旧旧道が管理道になっているのなら、自転車でも何とかなるかもしれないなぁと、期待が膨らむ。

頭にはヘルメット、長袖長ズボンに皮手袋、安全長靴、腰にはバトルアックス(ナタ)と鋸、クマ鈴4つと装備を整えて、今日2つ目の旧道と対峙する(1つ目は楠峠)。この道が鬼坂隧道に通じる旧道だ。路面はなかなか素敵なことになっているが、中央部分に見えるアスファルトがここが以前は車道だったことを証明している。途中、沢の水なども流れてこんでいるかもしれないが、長靴を履いているので多少の泥濘は大丈夫だし、なかなか楽しめそうだ。この道は現道の直上を通過するはずで、そこから見える景色も楽しみだけど、やっぱり一番は今の鬼坂隧道の姿かな。ここまで来たんだ。あと少しで出会えるはず。

ウエストバッグから8連発の火薬が入ったピストルのおもちゃを取り出す。引き金を引くと「パン!」と音がする、あのおもちゃだ。それを上に向けて一発、「パン!」と鳴らす。探索の開始と同時に、破裂音と火薬の匂いでクマよけとしての目的もある、儀式みたいなもの。気が引き締まる。

さぁ、行こう!。

第2部
「山の中の小径」へ