一般国道345号
楠トンネル旧道

第8部
「薄紫の花束」

2024年5月18日 探索 2024年7月16日 公開

「薄紫の花束」

前回の最後で盛り土した後に道路を造ったような道から、こんなに安定している道になった。しかし、ここで嬉しいのは、やっぱり左側に見える強固な擁壁と、落石防止フェンスだろう。しかもここまで頑強に造ってあるものは、この道では初めてかもしれない。
緑豊かな斜面にいきなり現れる、大掛かりな人工構造物。それは主である道路を護るためだけに造られた、山と戦う戦士、とは言いすぎか。

片側に擁壁などの道路構造物があるだけで、本来の道幅がこんなにわかりやすくなるとは思わなかった。ここは路肩に背が高い灌木や草があるものの、現役当時のこの道の姿がよくわかる区間だし、楽しみながら進んでいこう。辺りをキョロキョロしすぎて、擁壁にぶつからないようにしないと(笑)

先ほど位置から少し進んでみる。幸いにもまだ擁壁にはぶつかっていない(笑)
擁壁の上にはこれまた屈強なフェンス。その屈強さは、さながらボディビルダーのようだ(←失礼)。そしてその筋肉質なフェンスを、さながらローブのように纏い彩るのは藤の花。厳しさの中に映える薄紫色の艶やかさは、この時季ならではのものだろう。久しぶりに現れた通行者をもてなすかのように、精一杯咲いてくれていた。

この道ならではの贈り物、確かに受け取った。私はそのお返しに、この峠道の探索のことと、その探索に彩りを与えてくれた薄紫色の美しい花たちのことをレポートにしよう。そう思って、楽しかったこの道の探索のことを思い返しながら書いている。

…とまぁ気取って書いてはみたものの、今、私の背中が痒くなっているのは事実だ。やっぱり普段書かないことを書いたりするのは良くないということだな(笑)

熱烈な花たちの歓迎を受けた後は、また普段通りの道の探索に戻る。先ほどの擁壁は姿を消したが、その代わりに現れたのは先ほどよりも少し低い擁壁。この道も他の旧道の例に漏れず、ポイントポイントで擁壁にしっかりと守られた、災害と隣り合わせの道だったらしい。だから旧道になったんだな。しかし今は旧道になった分だけ、通行者の眼を豊かにしてくれる道になったようだ。
相変わらず、足元はしっかりと露出したアスファルト。自転車で降りていくには好都合の路面を、ブレーキいっぱい握りしめ、ゆっくりと下っていく(←どっかで聞いたな、おい(笑))。

ゆっくりと下っていくと、いきなり右側の視界が開ける。そこには、これから辿っていくであろう道筋が見えていた。手前には煉瓦色にならなかった白いままのガードレールの姿が見える。今、私が通っている道と、これから通るであろう道の間には、菅野代側と同じくここにも休耕地。ここは…田圃か畑だったのかな。ものすごく広く拓けているので、日当たりは抜群によさそうだ。でも、拓けている分だけ冬季は雪がかなり積もったんじゃないだろうか。遅い雪解けを待って耕作をするとなると、その可能な期間は短かったのかもしれない。

道に視線を戻すと、こうした旧道の峠道には珍しい一直線の道が待っていた。ここは自転車で一気に駆け抜けたいところだが、路肩に何があるかわからないので、ゆっくりと下って行った方がいいかな。直線とは言っても緩やかな坂道で、こんな坂道は荷物を満載したトラックにとっては下りはスピードが出るし、上りは荷物満載だと重くて上れない、ツラい坂道だっただろうな。そして、すくすくと育った草木が隠したガードレールは、今もひっそりと路肩を護り続けている。

峠道には珍しい真っすぐの道を降りてきて、休憩するのにちょうど良さそうな日影があると思ったら…たぶんこの木の傾き方は、この木がもともとここにあったんじゃなくて、木ごと上から滑り落ちてきたのかもしれない。で、ここで止まって、そのまま定着して育っている…もしそうなら、それはスゴいなと単純に思う。その向かいには、遥か昔からここに存在したかのような雰囲気を醸し出す木。遥か昔には旅人がこの木の袂に腰かけておにぎりを頬張ったかもしれないと思うと、なんだか楽しくなる。私もその旅人に倣って、腰かけて梅干しを頬張ってお茶を飲むことにしよう。

探索はいよいよ大詰めに。道の雰囲気からしても、おそらく現道は近い。楽しかったこの探索も、もうすぐ終わりと思うと名残惜しいが、最後まで見届けることにしよう。

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