一般国道345号
楠トンネル旧道
第4部
「煉瓦色のガードレール」
2024年5月18日 探索 2024年6月30日 公開
このレポートは初出は「楠峠トンネル旧道」としていましたが、
正しい名称は「楠トンネル」のため、訂正しました(URLはそのままです)。
煉瓦色のガードレール
突入とは言ってもヤブに閉ざされているわけではないので、ヤブこぎすることもなく歩いて行けるので非常に楽だ。路面は一見すると未舗装のように見えるものの、ところどころに黒いアスファルトが見えていて、ここが元は自動車が行き交う道だったことを教えてくれる。路肩に久しぶりに登場したガードレールの向こう側には、今は耕作をやめてしまった田圃だろうか、畑だろうかの農耕地の跡が拡がっていた。
実はここまでくる間に左側に分岐する道は、菅野代橋から少し進んだところで左側の農耕地に向かう道しかなかった。今は草むらになっているこの農耕地も、耕作が行われていたころは菅野代橋の地点からここまで来ていたと言うことになる。当時は管理が大変だっただろうなぁ。
てくてく…(もちろん自転車は押している)。気のせいか気温が下がってきたような気がするが、少し標高が上がったせいだろうか。おかげで身体は楽になってきたが、その分だけ隅々に目が届いてしまって、見どころが増えて仕方ない。視界の先には錆びて赤茶けた煉瓦色のガードレール、狭まる道幅、旧道に迫り来る緑の悪魔。いかにもといった感じで旧道や廃道の雰囲気が満載だ。さっきのバリケードの跡は冬季通行止めのバリケードの跡と考えると、ここは現道の楠峠トンネルが竣功するまでは、冬季閉鎖になっていた区間なのかもしれない。この風景が雪に埋もれているところを想像すると…雪深いし、そりゃ通れないだろうな。
キョロキョロしながら進んでいると、道路脇に現れたのは草に覆われた感情なフェンス。雪崩防止か落石防止の目的で設置されたフェンスは、峠の交通が途絶えた今も道路を守るという使命を護るべくここにいる。フェンスの奥の斜面を見ると峠が近いのか、さほど斜面がない。するとこのフェンスは雪崩防止か。
冬にこの楠峠を通れないと、交通が閉ざされてしまう集落があったのだとしたら(それは菅野代の集落か、温海川の集落か)、それこそ冬は白い悪魔との闘いだっただろう。夏には緑の悪魔、冬には白い悪魔と戦い続けてきた道。その道を今、こうして通れることが素直に嬉しい。しかし、この空の高さは…もうすぐ峠なんかな。だとしたら、少し物足りない気もする(←欲張り(笑))。
よかった!まだ続いてた!
右カーブを曲がると、そこに広がったのは、山中にまるでオアシスのように広がる平地。ここだけ木々がなく、明るい日差しが燦燦と降り注ぐ、とても気持ちいい場所。思わず背伸びして深呼吸してしまう。左の木々には藤が絡みつき、緑の中に薄紫の花が咲いていて実に美しい。車が通らなかった時代も、こうして通る者の目を楽しませていたんだろうか。
さっきまでの路面とは違って、ここはアスファルトがきちんと残っている。ところどころ草が生えていて、地味にひび割れている路面が実にいい。道は右カーブで森の中に入っている。まだまだ峠までは距離がありそうで楽しめそうだ。
思った通り、先ほどの地点から右カーブを曲がるとこの様子。いきなり人一人が通る幅になってしまうところが、様子がコロコロ変わって実に楽しい。いきなりここまで狭くなるか?ってくらいの狭さだ(笑)。気温が高く暑いからなのか、小鳥たちの鳴き声も聞こえない。どこか木陰で休んでいるんだろう。そりゃそうだろうなぁ、と一人呟きながら塩を一つまみ舐めてルイボスティーを飲む。うむ、微妙な味だ(笑)。
そういえば、この道にはガードレールはあったがデリニエータらしきものがない。通っている印象からしてこの道は結構旧い道だと思うんだが、馬頭観音も見当たらないようだ。ここで路肩に「山形県」の標柱でも見つかってくれると一気に盛り上がるんだが…。でも、ここまで楽しませてくれる道だ。それは贅沢というものか。
山の中に突っ込んでいく旧道。右も左も緑に包まれた道っていうのは、普段通っている道ではなかなかないと思う。しかも、ここまで来てもアスファルトの路面が残っていて普通に歩けるし、自転車を押していても通るのに特段の支障もないというのは、なかなかに珍しい。今はこうして登山道か散歩道の様相を呈しているが、過去には人や車が行き交う立派な国道だったのだ(たぶん)。だけど、この風景から往時の姿を偲ぶのは難しい。
道の周りには木々が茂って空の高さが掴みにくいが、眺めていると空がだんだん近づいてきているのがわかる。もうすぐ峠が近い、そんな気がする。次回はいよいよ峠か?!
第5部へ