一般国道253号
田澤トンネル旧道

第5部
「見えない壁と赤い橋」

2024年4月20日 探索 2024年10月29日 公開

見えない壁と赤い橋

現道の田澤大橋を目指して歩きだした私だったが、赤い橋に気を取られて手前の状況に気を配ってなかった。危ない危ない。平地だからいいが、山の中だと熊や鹿が出てくるかもしれない。気を付けなくては。赤い橋に気を取られていた私が見落としたものとは、これだ。

前回、渋海川の流れに削られた護岸を、路面が半分になりながらも復旧してあった部分を紹介したが、今回は復旧なしの護岸。よくよく見ると、ここも川岸が削られている。前回の場所は川の流れが曲がっている個所だったが、今回も大きく流れを変えているところだ。やはり水の力は凄まじいなぁ。自然の力をまざまざと見せつけられた。

田澤大橋を正面にして撮影してみた。左側の、岸が抉れている様子がよくわかると思う。この渋海川、この状態の時は穏やかで非常に美しい川なのだが、どうやら一度水位が上がってしまうと表情を変え、激流と化してしまうようだ。いかんせん川と言うのは大抵はそうじゃないかと思うが…しかしこりゃ派手に抉れてるなぁ…

ところで橋の袂、対岸に少し平地があるのが見える。そのあたりの川岸って、昔の川の風景が思い起こさせてくれるようで好きな川岸(ってのもなんだか変だが)だ。小さいころによく遊んだ川岸に似ているのかもしれない。

この探索の一応のゴールである田澤大橋までもうすぐだが、振り返って撮影してみた。右岸にこれまで通ってきた道が残っている。今から見れば細い道で、おおよそここが国道とはとても思えない道だが、以前はここが間違いなく3桁とはいうものの国道だったのだ。もうこれは立派な「酷道」と言えるだろう。それに道路脇の斜面。なだらかな、およそ45度から50度の斜面。それにここは豪雪地帯、冬になると間違いなく雪崩が起きていただろう。実際に今もここにある残雪にクラックが出来ていたから…冬季通行止めだったかもしれない。

派手に崩れている川岸を撮影してみた。まぁ綺麗に斜めにスッパリと…先ほどの崩れ方とはまた違った崩れ方をしていて、そのおかげで道幅は半分になってしまっている。割れたアスファルトの断面が痛々しい。よくよく見ると、路盤の川岸側には単なる土だけではなく、かなり大きな丸石が見える。川岸にはこうして中に丸石を忍ばせて、言わば「見えない護岸」として造られていたんだろう。

一回崩れてしまっているために、こうして接近して撮影するにも「いつ崩れるか」とヒヤヒヤものだ。出来るだけ山側に位置して山側に体重をかけるようにして撮影したが、アスファルトの下が空洞になっている場合もあるので、そこは見極めなくてはいけない。この高さとこの水量でも命取りになってしまうことを忘れてはいけないと、自分で自分に言い聞かせた。

崩れた路盤を乗り越えてー、泥濘いくつも乗り越えてー、目指すは見えてる田澤大橋ー…などと言う即興で造った歌を口ずさみながら先へ進んでいく。斜めに切れ込んでいく谷の一番下にある渋海川、きっと長い年月を経て今の川の高さになったんだろうな。何百年・何千年の時を経て、今この風景があると思うと非常に感慨深いものがある。そして、その谷の下の川の脇を削って通した道。それはまさしく人が自然に挑んだ証。そういった景色は実に美しい。

草が刈りこまれた路面、路面に残るダブルトラック。短いけど変化に富んだこの旧道の探索も、もうすぐ終わり。…確かにそうだが、そうではない。実はこの道、次につながっている。一旦、現道に合流はするけどね。ところでこの辺に来て路面が荒れているが、これは残雪が溶け出したせいだろう。その証拠に、前方に積もった雪で根雪になっている部分が、一部見えている。今日の陽気で融けてしまって、クラックになっただろうか。

まぁ、あのくらいのクラックならどうと言うことはないかもしれないが…現道時代は先ほどの斜面に積もった雪にクラックが入っていたかもしれない。もしそうなら、いつ滑り落ちてくるかわからず、これほど怖いことはない。…やっぱり、新しい現道を造って正解だったんだな。

次回、目の前に見えている田澤大橋と田澤トンネルを確認してみよう。
その竣功年から、道路が切り替わった時期も掴める。

第6部
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