新潟県一般県道480号
山中上野線
第19部(完結編)
「旧き家、旧き道」
2024年9月28日 探索 2025年5月7日 公開
旧き家、旧き道
前回の最後で「次回は廃墟をご紹介」というらしきことを書いた。この県道480号の前半の終わりは、この廃墟を中心に進めていこうと思う。

この橋は仙田橋のすぐ脇にある。元は大きな商店だったのかもしれない。自転車メーカーの看板が目新しく感じる。今ではなかなか耳にしないメーカーだけに、どんな自転車だったんだろうと想像する。建物の大きさからすると、この集落のデパートのような存在だったんではないか、そんな想像が膨らむ。
二階に整然と並んだガラス窓(扉?)が美しい。今ではなかなか目にすることのないこの造りは、豪雪地帯で冬になって雪が降ると二階が出入り口になるという当時の風習が遠因となっているかもしれない。雨が降る日はこの外側にもう一枚雨戸があるだろうし、夏はこのガラス窓を外して涼んでいたのかなと考えると、昔の生活が眼前に蘇ってくるようだ。

先の画像ではなんだかわからなかった右側の看板の文字が、この角度で判明した。それは「ミヤタの自転車」。現在ではミヤタサイクルとして盛業中の会社である。その隣にある三馬自転車とは…?。今は無きメーカーなのかもしれない。
三馬自転車。読み方は「みつうま」だろうか。検索してみると、かつて東京都荒川区三河島町四丁目にあった三馬自転車工業株式会社のことらしい。「三馬号」として高級自転車を製造し、通産大臣賞も受賞したメーカーのようだが、現在は存在しないようだ。
建物の妻面が山形になっている。しかも、窓の妻面と形があっていないというのが実に面白い。よく見ると窓の部分だけ出っ張っており、出窓(ではないけど)のようになっている。やっぱりこの連続した窓は、いわゆる「縁側」の役割もあったようだ。今みたいに暑くなかった夏。標高も高いこの地域は、まるで「となりのトトロ」に登場する家々のように、蚊帳や団扇の風景が見られたことだろう。

後年に設置されたものだろうか。字体が新しいように見えるけど、これは1階のお店部分に落ちていたものだ。お店部分は軒下が長く、雨や雪が降った際には容易に退避できる構造になっていた。この看板は軒から滑り落ちてくる雪に注意するのを促すために設置された看板。遥か昔には、前の章で紹介した仙田橋を越えて仙田隧道をくぐり、岡野町に向かう旧旧道にはバスが通っていたのかもしれない。そんでもって、ここにバス停があったのでは?。そう考えると、バスは旧旧道を走っていたことになる。素敵じゃないか。なんとしてもその旧旧道の探索をしないといけない。

右に見えるは仙田橋の親柱。この建物は、毎度おなじみ渋海川の川岸ギリギリに建てられている。先ほどの落雪注意の看板の上には「クリちゃんのパン」と言う看板がある。少し調べてはみたものの、結局わからずじまいで謎となってしまったが、地元のパン屋さんだったのかもしれない。食べてみたい気もするが…

これは川側の2階部分の戸袋なのだが、よーく見ると何か文字が書かれていたようだ。清酒の名前か、それともお店の屋号が書かれていたのか…。1階はそのほとんどをお店として使用していたようで、2階部分が住居として使われていたと思われる。上で紹介した通り、かなり大きい建物であることと、松代方向へ向かう現国道403号・404号(重複区間。ここも元は県道だったはず)、岡野町と十日町を繋ぐ道(現県道480号)の十字路にあること、建物の歪みも少なくしっかりした建物と言うことを考えると、かなり賑わっていたお店なんだろうなと思われる。何しろ、自転車も扱っていたんだもんね。きっとこの地域にとっては自転車などの大きなものから日用品、食料品まで扱っていたデパートのような存在だったんだろうな。

これは、この商店がある十字路を越えて、振り返って撮影したものだ。画像正面方向が仙田橋、仙田隧道方向になる。この画像を見ていただければ、この建物の大きさをわかっていただけると思う。やっぱり大きいなぁ…このお店が現役だった頃に、ここに来たかった。
ところで青看にご注目いただきたい。小さくて見えにくいので非常に恐縮だが、直進方向に県道番号の表示はあるが、行先の地名がない。そりゃあね、確かに途中で通行止になってはいますがねぇ…。新潟県通行規制情報のWEBを見ると、令和元年8月22日の17時30分から「当分の間」通行止めになっているものの、あくまでも「当分の間」なのだから、ここは仙田隧道を過ぎて最初に辿り着く集落の「山中」とでも表示しておくべきなんではないだろうかと思ってしまう。
となると、この県道480号に関して新潟県は、このまま通行止にしたままで廃道にしてしまうつもりらしい。どんなに古くから活躍した道でも、その時々の道路管理者によって廃道にされてしまう。そこに一抹の寂しさを覚えてしまうのは私だけだろうか。

最後はこの画像で、このレポートを締めたい。
この画像は第6部「天空の三差路」で登場してきた三差路の右方向へ進んだもので、道なりに進んでいくとこの地点にたどり着く。正面には「ハト」の警戒標識。だが、この標識を信じて進むと、夏や秋の季節にはきっとすぐに言葉を失うことだろう。その理由は想像してみるに難しくはない。…そう、この右カーブを抜けるとすぐに正面が激ヤブの道になるのだった。
この前方で狭くなって激ヤブになっている道、これが岡野町から仙田隧道を抜けて中仙田の集落に繋がる旧旧道で、地理院地図にも記載されている道だが、激ヤブになっていることを考えると…おそらくその道の途中に、通行できなくなった何かの理由があると見ている。それも含めてどんな道なのか、私はこの目で見たい。
この旧道は近いうちに必ず探索すると道に誓い
この旧道を後にした。
ちなみに仙田橋から先の区間は
またいつか遠くないうちにお届けしたい
新潟県一般県道480号
山中上野線
(一旦)完結。
新潟県一般県道480号 山中上野線
- 山中上野線 第1部「その日は突然に」
- 山中上野線 第2部「取り残された場所」
- 山中上野線 第3部「ヘアピンカーブの真ん中で」
- 山中上野線 第4部「稲架掛けの先に」
- 山中上野線 第5部「草と苔に覆われて」
- 山中上野線 第6部「天空の三差路」
- 山中上野線 第7部「ひび割れたアスファルト」
- 山中上野線 第8部「国道の貫禄」
- 山中上野線 第9部「宿場を目指して」
- 山中上野線 第10部「アースクェイク」
- 山中上野線 第11部「旧き隧道の姿」
- 山中上野線 第12部「断面が変わる隧道」
- 山中上野線 第13部「峠越えの街道」
- 山中上野線 第14部「取り残された道」
- 山中上野線 第15部「嬉しくない出会い」
- 山中上野線 第16部「取り残されたエンドポスト」
- 山中上野線 第17部「丸石積みの擁壁」
- 山中上野線 第18部「通せんぼの県道」
- 山中上野線 第19部(完結編)「旧き家、旧き道」