新潟県村上市道 鈴滝線
藤倉隧道

2021年9月18日 探索 2022年4月18日 公開

今回は、たまたま見つけた隧道のお話。それぞれの隧道には、その隧道が持つ雰囲気と言うものがあると私は勝手に思っているが、この隧道はたまたま見つけたにも関わらず雰囲気が良くて、気に入ってしまった隧道の一つだ。

その日、私はいつもの探索ではなくて、とある場所に向かうためにこの道を走っていた。
その道とは、新潟県村上市道鈴滝線。
村上市の中でも旧朝日村の地域には数多くの林道があるが、この鈴滝線も前身は林道であり、現在も途中で1本(林道鈴川線)、終点から2本の林道(林道平床線、林道本屋敷線。但し林道本屋敷線(森林基幹道元屋敷線)は通年通行止め)を分岐させている。
私はこの市道鈴滝線の途中から林道鈴川線に入り、日本の滝百選にも選定されている「鈴が滝」に向かうために通っていたというわけだ。

その際に途中で出会ったのが、この隧道である。では、ご覧頂こう!

車1台分しかない狭い山道を進んでいくと道はみるみる標高を上げて、左に流れていた川もいつの間にか遥か下に見えるようになっていた。万が一、ここから落ちようものならそこで終わりだろう。いつもは力強く見えるガードロープが今一つ頼りなく見えてしまう。
そんな道を進んでいくと、路面が沢の水で濡れていかにも滑りやすそうな感じの道が続く中、この隧道はいきなり現れる。これまでは斜面を削りながら道を造ってきたが、ここは岩のせり出しが大きいので穴をあけました!…とでも言わんばかりの、押し出しの強い手掘りの隧道。こんなのは私の大好物(笑)。この道を走っていた目的を忘れて、さっそくこの隧道を眺めてみることにした。


道が進む先を遮る岩山に穿たれた、一筋の穴。こうして立ち止まってこの隧道とその周りを眺めてみると、なるほどこれは岩盤を削るよりも、切り通すよりも、岩盤そのものに穴をあけた方が早いように思える。それに隧道の上の土被りと、それを彩る周辺の緑も明るい陽の光に照らされて非常に美しい。このキラキラした感じはオジサンに近づいてる私には(既に…という話もあるが、それは置いといて(笑))眩しすぎるところだが、まずはこの隧道をじっくりと眺めてみることにしよう。

ちょっと近づいてみて、また撮影してしまう私だ(汗)。こうして近づいて見ると、大きな崩れなども無いようで、強固で安定した岩盤に掘られた隧道と言う感じがする。坑道の内部は吹き付けコンクリートで覆われていて、素掘り隧道に見られる凸凹した感じがまたいい。

反対側の坑口に出て、そこから隧道内部を撮影してみる。隧道の延長はさほど長くないので、この画像でも内部の様子は掴んでいただけると思う。コンクリートが吹き付けられた坑道の内部に赤いスプレーで書かれた文字があちらこちらに描かれているのが見えるが、もちろんこれは落書きなどではなく、この隧道を管理していく上での補修箇所(吹き付けコンクリートのクラックやハガレなど)が記されたものだ。コンクリートが白いので目立つが、これも隧道が管理者によってしっかり管理されている証。だからこそ、私たちも安心して通行できるというもの。非常にありがたいことだ。

通行した後、少し離れて撮影してみた。こうして見ると坑口の印象が向こう側と違って、岩山に開けられたと言うことが一際よくわかる。それに、隧道内の舗装された路面の外側に草が生えていたりして、そんな状態を初めて見た私にとっては非常に新鮮な光景だ。
それに入った方の路肩に設置されていた防護施設は確かガードロープになっていたはずだが、こちら側では鉄パイプを組み合わせた簡素な造りになっている。だが、よく見るとこの鉄パイプが組まれた箇所だけ、路肩がコンクリートで固められているように見える。もしかして以前にこの部分だけ滑って路盤消失したのではないか。そんな気もする。

ところでこの隧道、名前も竣功も何もわからないことだらけで、少し気持ち悪い。そこで、名前だけでもわからないかと村上市役所にメールで問い合わせると、非常に丁寧なお返事を頂いた。それによると、この隧道は「藤倉隧道」と言うらしい。竣功年月などは村上市でも把握しておらず、わからないとのことだった(村上市役所朝日支所の皆様、ありがとうございました!)。
隧道に困ったときには!と言う訳で、隧道リストを調べてみることにする。すると・・・

あったー!

黄色い帯の際の数字が「3」と言うことは、昭和を意味する。続いて完成年・・・と続いていくが、これによると3の31と言うことは昭和31年竣功と言うことだ。意外と近隣の竣功だったなと思ったが、それでも今から60年以上前のことになる。

もう一度、藤倉隧道を眺めてみる。大きな岩の中心を貫通したと言ってもいい印象の隧道は派手な装飾も扁額もなくて、おそらくはその名前さえ知られることもほとんどないにも関わらず、こうして深い山の中で今もひっそりと車を通し続けている姿に、畏敬の念すら覚える。

だが、その名前を知っている者も確かに存在するし、私もその知っている者の仲間入りを果たしたのは非常に嬉しい。どうか、これからも麓の集落と奥深い山中の林道を結ぶ役割を果たし続けていってほしいと願う。

新潟県村上市道 鈴滝線
藤倉隧道

完結。