一般国道253号
犬伏トンネル旧道

第1部「いじわるな風景」

2024年4月20日 探索 2024年11月13日 公開

「いじわるな風景」

まずはこの旧道の分岐点周辺から調べてみよう。
この画像は、分岐点そのものを旧道から撮影したものだ。奥に見えるシェッドが田沢スノーシェッド。旧道はこのようにシェッドを出るとすぐに分岐している。このため注意して見ていないと、あっと言う間に先ほどの炭坑橋を渡って犬伏トンネルに入って行ってしまう。旧道に入るのなら、スノーシェッドの出口に近づいたら減速して注意しながら進行するのがいいだろう。入り口にはフェンスもないので、車で進入することができる。

旧道側から分岐点を見ると、強固な擁壁がそびえている。その擁壁の下には側溝があったりして、もともとはここが道だったことを今に教えてくれている。側溝から手前側は、以前は花壇だったのだろうか。ちょっとした花壇の跡のような地面が広がっているが、今は手入れする人もいなくなってしまったのか、土肌の地面が広がっている。

上の地点から、今度は旧道側を眺めてみる。田澤トンネル旧道と同じく、渋海川に沿って進む旧道の道幅はさほど広くなく、おおよそ車1台プラスアルファと言ったところだろう。もっとも昔の車は現代の車のように車幅も広くなかったので、この道幅でも十分にすれ違えたのかもしれない。路面は今でもしっかりとアスファルト舗装がなされており、この辺りは普通の道路のように通行することができるのだが、なんとなく物足りないのは否めない(笑)。

ベース地点として車を停めているところを通り過ぎ、いよいよ旧道に入って行こう。ベース地点より少し進んだところで前方を眺めたのが、この画像の風景だ。先ほどよりも幾分川幅が狭くなっている渋海川を右下に見て、旧道はその水面よりも7~8メートル上を進んでいく。その旧道の路肩にはガードレールやデリネーターなどと言う気の利いたものが一切なく、すれ違いの時に万が一脱輪でもしようものなら、真っ逆さまに渋海川に転落してしまうかもしれない。初心者のころには絶対に通りたくない道に挙げられただろうな。

少し先には左の山側から斜め45度くらいの角度で路面に繋がる、なんとも素敵な斜面が見える。この斜面は雪崩防止柵も何もなく、積雪時には確実に雪崩が起きていたんじゃないかと思わせる斜面だ。渋海川側の路肩にはガードレールやデリネーターが何もなく、山側の斜面には雪崩防止柵も何もないという、真冬の積雪時には絶対通りたくない、特に厳しい道だったことを教えてくれている。

いつもは道を主体にして撮影しているが、川を主体にして撮影してみたのがこの画像。渋海川と道との関係がよくわかる画像になった。特に田澤トンネル旧道の時よりも確実に川幅が狭くなっている渋海川。ここに濁流が押し寄せてきたらどんなことになるか、推して知るべしといったところではないだろうか。

旧道や廃道を探索していると、こうして時間の流れをまざまざと見せつけられる風景に出会うことがある。その頻度は決して少なくはないし、こういった何気ない景色の中にこっそりと隠れていたりする、とてもいじわるなものだ。この擂鉢状の斜面も、おそらくは渋海川の侵食によって生まれたものだろう。ここまで来るのに何百年、いや何千年かかったのか。思わず悠久の時の流れを感じてしまった。

…と、耳を澄ませると渋海川の流れの音とは別の、水の流れる音が微かに聞こえる。何だろう?、左側の斜面の上の方から聞こえてくるようだ。路面からは見えにくかったが、何か斜面の上の方にあるみたいで、取り付いて上って見ると…



隧道じゃないか!。これは水路の隧道か?。…ん?、水路隧道?。

おおっ!これはもしかして!

田澤トンネル旧道の終盤途中にあった、あの謎の水路隧道!。そうか、水が変な方向に流れていたり、とても上がれないような地味に急な斜面の途中に坑口が開けられていた、あの隧道。坑道の断面が田澤トンネル側と若干違うような気がするが、たぶん間違いないだろう。となると、おそらく一直線に掘られているだろうから、この坑口から覗き込んでみれば田澤側の明かりが見えるはずだ!。

斜面に取り付いてよじ登り、坑口の中を覗き込んでみると…
チェンジ後の画像は、その覗き込んだ時の画像だ。見える!、思った通り一直線で田澤側の明かりが見えるじゃないか!。そう思ったのも束の間、今度は疑問が湧いてくる。

この隧道、確かに今は水路として使われているが、それは路面の片側だけを使っている。改めて田澤トンネル側の画像を見てみても、やはり片側を使っていることに間違いない。そうなると、もしかしてこの隧道は最初は水路隧道ではなく、人道用として掘られたものではなかったか。人が通るには隧道断面が若干狭い気がするが、それも子供なら十分に通行できる高さだし、位置的には現道がスノーシェッドで越えなければいけない部分を一直線に貫いている。探索後にわかったことだが、この付近には児童が通学の際に安全に通行できるようにと願って掘った、いわゆる「雪中隧道」があったと聞く。もしかして、この隧道がその雪中隧道なのか?。これは調べてなくてはなるまい。こうしてまた調査が一つ山積みになっていく(^^;

坑道断面からすると、まず間違いない。遥か先に丸い形の坑口が見えるし、あれは田澤トンネル旧道側の坑口だろう。この時は時間的制約もあって坑口の中には入らなかったが、田澤トンネル旧道の例の石垣もあることだし、再訪しないといけないな。雪中隧道なら掘られた年代から考えると素掘りなのかなと思ってしまうが、中を見るとコンクリートブロックで巻き立てが行われているようだ。それは後世に改修されたものかもしれない。


隧道の素性がなんとなくわかってきたところで、旧道の探索に戻ろう。
だが、この後の旧道の探索はなかなか素敵なものになるということを、この時点ではまだ私はわからなかった(笑)。

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